雑誌83カ国、オンラインサイト49カ国で展開する、女性メディアのグローバルブランド、コスモポリタン。他の国のコスモは、どんな女性たちが作っているの? 彼女たちの仕事にかける思いとは?

コスモポリタン アメリカ版が、各国の編集長を直撃しました!

【コスモポリタン イギリス版 編集長:ファーラー・ストー】

コスモポリタン イギリス版の編集長として活躍するファーラー・ストー現在37歳。その経歴を見ると、多くの雑誌を改革してきたことに驚き。かつてエディターを務めた『Good Housekeeping』も『Glamour』もイギリスでは知らない人はいない人気雑誌。そんなファーラーは、コスモポリタン イギリス版の読者を「人生の大事な時期を過ごす人たち」だと言っています。彼女の考える成功のカギは「共感」と「勢い」。

――コスモに入ったきっかけは?

私の姉も編集者で、今は廃刊になった『more』という雑誌で働いていました。その頃私はロンドンに住んでいて、英語とフランス語を専攻する大学生でした。女性誌で働き始めるのは自分にとっては自然な流れだったし、そうなるように在学中から意識してきました。だから1617歳の頃からポートフォリオを作り始めたんです、仕事が欲しかったので。今どきの子なら、ブログから始めるだろうと思いますが、当時はそんなものはありませんでした。

最初はたくさんの実務研修を積むことから始めたんです。一番最初の頃は、何でもかんでもやらされましたよ。例えばその中のひとつは、クラブの外に立って、セクシーな男性が現れたら声をかけて「一番好きな色は何?」と聞くこと。そんなことをたくさんしてたんです。その後、私が最初に就職して働いたのが『Woman and Home』という、私の母親世代に読まれている雑誌でした。私はまだ23歳で、子どもが巣立った世代の人たち、更年期世代の人たちが読む雑誌に関わるのはなかなか難しい仕事でしたね。その後『Good Housekeeping』という別の主婦雑誌に移り、そしてその後女性全般に読まれる『Eve』に移動、そして(若い世代のファッション誌)『Glamour』で2年ほど働きました。

その後、『Woman's Health』という(女性の健康についての)米国の人気雑誌のイギリス版を出すことになりました。これはなかなかのリスクでした。雑誌の出版が難しい時期に直面していたこともありますし、成功するかどうか全く見当もつかなかったのです。「健康」について全く詳しくなかったにもかかわらず、私はその雑誌の出版に関わることになり、まずはたった4人で立ち上げることになりました。が、結果、大成功を収めたんです。その後、コスモポリタン イギリス版の編集長のポジションをオファーされ、今に至ります。

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――キャリアについてアドバイスすることがあるとしたら、なんでしょうか?

ひとつは「『ノー』という答えは絶対受け入れない」。私の夫が言ったことだと思います。私の夫はライターでもあり、また恐れを知らないジャーナリストでもあります。彼は根気強く調査をする人なんです。

もうひとつは「共感を忘れない」。特にあなたが編集者だったら、とても重要なアドバイスではないでしょうか。もちろん、どんどん相手に踏み込むのも大事だけど、でも同時に共感能力も必要です。いいジャーナリストというのは、敬意と平等の心を持ち合わせていることがものすごく大事だと思うんです。

――コスモ イギリス版の読者について教えて下さい。年齢層はどれくらいですか?

読者の年齢について聞かれたら、「27歳」と答えます。27歳は人生の分かれ目なんです。例えば、私は27歳のとき、荷物をまとめてオーストラリアに旅立ちました。27歳はまだ勇気があり、若い。人生を楽しんでいるけど、不安も多い。今、住宅問題に直面しているイギリスではお金の問題は非常に深刻で、27歳はその問題に目を向け始め、結婚を意識し始め、出産について心配し始める分岐点と呼べる年齢なのではないかと思うんです。交際も、お金も、深刻に悩み始める頃なんです。それで、この年齢に重大な人生の決断をする人が多いのです。

――読者たちが夢中になっているセレブは? アメリカ人同様、イギリス人もケイト・ミドルトンに夢中ですか?

アメリカでは彼女が人気なのですか?

――アメリカの女性たちは彼女に夢中なんですよ!

アメリカ人はイギリスのロイヤルファミリーが好きみたいですね。彼女を載せれば新聞は売れるでしょうし、みんな興味はあるでしょう。それは彼女の妹においても同じです。彼女は昔のダイアナ妃のポジションですし、注目はしています、でも夢中かと言われると…ノーですね。もちろん、彼女が私たちの表紙を飾りたいと言えば考えるでしょう。だけど、私たちが注目しているのは、自分自身で成功を勝ち取った女性なんです。この国の女性にとっては、それがものすごく大切なことなんです。自分の会社を立ち上げ、自分のブランドを表現し、自分自身のビジネスを持つこと。そういう観点で質問に答えるとすれば、女優でもありビジネスウーマンでもあるジェシカ・アルバ、セルフプロデュースが得意で、自分のブランドを持ち、ビジネスセンスもあるキム・カーダシアンも人気があります。そういったビジネス戦略のあるセレブが注目されていると言えますね。ケイト・ミドルトンはそのカテゴリーには当てはまらないでしょう。もちろん、ケイトのことは好きですけどね。

――毎回、同性婚や中絶についての質問をしているのですが、多くの国のエディターによると、これらはテーマ的にタブーとされているようです。イギリス版ではどうですか?

全く問題ありません。私たちは同性婚も中絶の権利もとても民主的で好意的に捉えているんです。なので全くタブーではありません。

――タブーとされているテーマはありますか? ボーダーラインはどう設定しているんですか?

特にありません。そこがイギリスの雑誌のいいところだと思っています。何について書いてもいいんです。タブーにこだわるよりも、ショッキングで挑発的であること、それがイギリスだと思っています。むしろ、そういうあり方を守るのが使命でそれに集中しているんです。

タブーについてと言うより、私たちのジャーナリズムについてのあり方を話します。例えば、イギリスでは今、住宅問題に頭を抱えているんです。元々手頃な住居が少なかったのが、今ではほとんどゼロに近い。これは、自分の将来を考えている若い女性にとっては深刻な問題なんです。

そこで、ロンドンを中心に、ありとあらゆる方法で住居を求める人たちに会うことにしたのです。セックスの代わりにベッドを得ている人たち。寝場所を貸し出している人たち。夜のシフトで働いて夜中はベッドを貸し出している人たちなどなど。それを、実際にライターの1人に1カ月ほど体験し取材させたのです。深刻な問題に取り組み、実際に経験してみる、それが私たちのジャーナリズムのあり方なんです。

随分回り道をした答えかもしれませんが、要はもうイギリスにはタブーはありません、アナルセックスですらタブーではありません。それすらショッキングな話題ではないんです。随分と甘やかされているように聞こえるかもしれませんが、記事のテーマに向けて懸命に動くことが大切なんです。

――昨年を振り返って、読者から反響の大きかったものはありましたか?

イギリスでは、(性犯罪防止を目的とし、アメリカの大学生に試験的に配布された) "セックス同意キット" とそれを取り巻く議論ですね。過去12カ月、若い男女の間でかなり話題になっています。私たちはイギリスで初めてこのセックス同意キットを取り上げたんです。セックス同意キットは、麻袋にミントとコンドームとセックスを同意する書類が入っているものです。まだアメリカにしかありませんが、すぐイギリスにも上陸するでしょう。同意する際、セルフィーを撮ることになってるんです。もちろん狙いは良いのですが、現実的でしょうか? それにセクシーな一夜が台無しになると思いませんか? そこで、私たちのライターに1カ月ほど試させたんです。

――「セックスの同意」について、特に注目すべき議論は?

大学でレイプやセクシャルハラスメントの報告が増えていますが、実はこれは今に始まったことではないと思うのです…イギリスの大学でも取り組み始めているところです。

――住宅問題以外に、コスモの読者が頭を痛めている問題は? 読者はコスモに答えを求めていると思いますか?

やはりお金の問題でしょうね。キャリアをどう構築するのか、どう収入を作っていくのかは大きな興味の対象でしょう。これだけ多くの若者が、住宅問題に直面する現実は今までに無かったことなんです。35歳以下の人たちは、自分の家を買う人生コースに入り込めなくなってるんです。20代後半から30代前半の読者で、いまだに友達とシェアハウスに住んでいる人たちが本当に多くて。もっと若い頃、自分の未来がそうなるとは予想だにしていなかったから、ショックを受けてるんです。「一体どうしたらいいの?」「この状況にどう対応したらいいの?」と自問している。私たちは一緒に解決策を模索しているんですが、これはあまりにも大きすぎる問題です。女性だけ、コスモの読者だけの問題ではなく、世代全体の問題なのです。

他には、もっと男性を取り込むこと。私はもう彼らのヌードのグラビアを載せたりしません。それより、男性の発言を取り上げること。これは私が今までのフィードバックから感じてるんですけど、男女のコミュニケーションは現在ある意味危機的な状況にあると思うんです。やたらと『男らしさ』を強調するのは危ない。それより彼らの内気な部分や今抱えてる問題を取り上げる、これは私たちにとっても新しい試みです。

――あなたが考えるフェミニズムについて教えて下さい。読者はフェミニストをどう定義していると思いますか?

コスモの読者にとってのフェミニズムとは「平等」でしょう。シンプルです。男性と同じ機会が与えられること、同時に、重要なのは女性であるからといって特別に許されるのを期待しないこと。同じ土俵で物事に向き合うこと。「人間であることが第一、性別は二の次」とキャンディス・ブッシュネル(アメリカの作家)が言いましたが、その通りだと思います。

――セックスについて、読者はどんな記事を期待していますか?

セックスを取り巻く状況は今複雑になってますよ。私が若かった頃よりもずっと。それもあって、イギリス版は「セックスとどう向き合っていくか」を集中的に取り上げてるんです。テクニックの話ではなくて、全体像をね。

――雑誌とウェブ版の関係性はどうですか?

テジタル(ウェブ)チームも雑誌チームも同じ場所に座っていて、私のオフィスから両方見えるんです。私は両方と密接だし、それに加えて特集に取り組むチームも同じオフィスにデスクを構えています。彼らはみんな別々のチームですが、同時に働く仲間です。

特集チームはアイディアを生み出すグループで、そのアイディアのうちのいくつかが雑誌には適してないと感じたとき、ウェブの方に採用される。逆のパターンもあります。なので、特集チームは両方のグループと近い場所に座ることになっているんです。

デジタルチームはものすごく冴えたストーリーを考え出すし、特集チームはそれを受けて時には「これは雑誌の方で採用した方がいいかも」という提案をしていったりします。お互いに活発にやりとりをしているんです。デジタルチームは、とっても分析的なんですよ。対して出版チームはよくトレンドを観察している。だから、今どんなものを印刷物に載せればいいのかを教えてくれるんです。

――あなたの読者が夢中になっているSNSは?

スナップチャットでしょうね。みんな本当にスナップチャットが大好き。若い読者層になると人気は落ちますが、私たちの読者の中でも年齢が高めの層にとっては絶大ですね。Facebookももちろんだし、インスタグラムも好きですね、インスタグラムの重要性は上がっていく一方のようです、何しろ居心地がいいですから。のぞき見の好きな人たちにとってはたまらない魅力ですね。

――コスモ アメリカ版とイギリス版は両方英語のメディアですが、ライバルだと感じますか?

いえ、そうは思いませんね。私は15歳の頃からアメリカ版を買って読んでいますが、同時にイギリスの雑誌も買っています。実は両者は大きく違っているんですよ。まず切り口が違いますし、語り口も視点も違っているんです。だからうまく両立していると思いますよ。アメリカ版編集長のジョアナはイギリス人ですけど、私は彼女の仕事は大好きだし、彼女の存在は自分にとってプラスになるし、インスピレーションをもらっています。そんな存在がいるというのは、自分にとって幸運なことだと思っています。

――どういう風に語り口が違うのですか?

アメリカ版についてのコメントは難しいですが、イギリス版について言えば、若干小悪魔的な感じに描かれていますね。これがイギリスらしさだと思います。生意気で、挑発的とでもいうのでしょうか。そういう生意気で遊び心のあるスタイルはイギリスの女の子の特徴だと思うんです。私は一時オーストラリアに住んでいましたが、オーストラリアの女の子は本当に、あけっぴろげにおもしろいんです。だけどイギリスの女の子のおもしろさとは違うんですよね。オーストラリアにいたときは、イギリスのそういう"ちょっと悪い子"な女子のノリをとても懐かしく思っていました。

――イギリスの女の子=生意気な子って、ちょっと意外でした…アメリカ人はあなたの語る「アメリカとイギリスの違い」に驚くと思いますか?

そうですね、多くの人が英国人は固苦しく本音を言わないと思いこんでますけど、それは私たちがオープンじゃないからでしょうね。本当にふざけた部分は壁の向こうに隠してますから。

――と言うより、私たちはアメリカ版がどのコスモよりも挑発的な雑誌だと思っているんですよ。でも、あなたは自分たちの雑誌の方が挑発的だと…。

双方が「私の方が挑発的」って思っているんでしょう(笑)。思うにコスモポリタンはセックス記事をオープンに掲載するちょっと「挑発的」な雑誌、という世界の共通認識があるし、イギリスでもそういう立ち位置には違いないんです。そして他のカテゴリーについても、どんどんそういう「挑発的」な部分を前面に出してきてるんです。これはセックスを単に取り上げるよりもっと高いハードルだし、きっと読者は今後も驚かされ続けるだろうと思います。

※この翻訳は、抄訳です。

Translation: 山下 英子

COSMOPOLITAN US