イギリスで女優として活動するフリーダ・ファレルさんは、22歳のとき性的奴隷として売買された経験を持つ女性。14年後、自分の経験を元に脚本を書き、長編作品として映画化されました。製作及び主演を務めた彼女は「セックス・トラフィックは特別なことじゃない。誰にでも起こりうることなのです」と語っています。フリーダさんの告白を、コスモポリタン イギリス版からお届けします。

【INDEX】

  • セックス・トラフィックとは
  • オーディションで起きたこと
  • 監禁されて事態が一変
  • 事件のその後
  • セックス・トラフィックとは

    「セックス・トラフィック」とは性的人身売買のこと。未成年の少年少女や若い女性が性行為を目的に売買される犯罪行為が、近年世界中で横行しているそう。しかし被害者たちが自らの体験を語ることは少なく、その実態はあまり知られていないのが現実です。

    オーディションで起きたこと

    「私はスウェーデン出身ですが、事件が起きた14年前はロンドンに住んでいました。当時演劇学校を卒業したばかりで、女優の仕事を得るためにオーディションを受ける日々。オーディション会場は個人宅から劇場まで様々でした。私は16歳から海外で暮らした経験もあるのでわりとしっかりした人間だと思っていましたが、その後に起こった恐ろしい事件のことを考えると、世間知らずだった部分もあったのかもしれません。

    ある日、ロンドンの中心部オックスフォード・ストリートを歩いていると、男性に声を掛けられました。彼は"ピーター"と名乗り、歳の頃は50代、スーツを着こなした身なりのよい男性でした。感じのよい男性だったこともあり、私は怪しむことなく足を止めて話しはじめました。

    彼は旅行会社用のパンフレットのモデルを探しており、私をキャスティングしたいと言いました。私にはモデルの経験がなかったので断ったものの、彼は諦めず、半日だけでも撮影に協力してほしいと押してきました。しかも提示したモデル料は高額でした。彼は名刺を差し出し『僕の会社のウェブサイトをチェックして。その上で明後日のテスト撮影に興味があれば、電話をください』と言い、去っていきました。

    名刺に書かれたサイトを閲覧したところ、信頼できる、ごく普通のキャスティング会社のように見えました。下着姿の女性やヌード写真など、『これはやめておこう』と思うような要素はサイトにはなかったのです。納得した私は彼に電話を掛け、テスト撮影に参加することを約束しました。

    テスト撮影はピーターの家で行われました。彼の家はロンドン中心部に程近いハーレー・ストリートにある5階建てマンションの最上階。小さなエレベーターに乗って5階へ上がり、彼の家の中に入りました。そこにはごくごくスタンダードな写真撮影用のセットが設置されていました。背景用スクリーンに照明、カメラ、飲み物や食べ物を並べたテーブルに、アシスタントの若い女性1人。彼女がいそいそと撮影の準備をしていました。

    その場にいたのはピーターと私とアシスタントだけ。時間差でモデルが到着し、テスト撮影が行われる方式なのかな?と思い、特に不自然には感じませんでした。彼が何枚か私の写真を撮影し、『クライアントが気にいったら、明日また連絡する』と言ってその日の撮影は終了。ごくごく普通のオーディションでした。

    ピーターからの連絡はすぐにきました。クライアントが私のことを気にいったとのことで、翌日に彼の家にまた呼ばれたんです。半日で終わるという"本撮影"のオファー額は7,000ポンド(約90万円)! 私にとっては大きなお金でしたが、怪しむほど高額ではなかったので、私は何の疑いも持たずただ喜んでオファーを受けることに決めました。

    家に戻ると、この嬉しいニュースを当時付き合っていた彼氏に電話で伝えました。研修医だった彼はシフトに入る直前だったので、手短に『撮影のために数日間会えなくなるかも』とだけ伝えました。彼のシフトは本当にハードで、3日間長時間勤務の後に12時間死んだように眠り、翌日は休みなので私とデートする―そんなルーティーンの人でした。

    翌日、撮影のために再びピーターの家を訪ねました。中に入ると、彼はドアを閉めてすぐに鍵を掛けました。ドアが閉まる音にビクッとした私はゆっくり後ろを振り返り、彼が内鍵を掛け、その鍵をポケットの中に入れたのを憶えています」

    監禁されて事態が一変

    「鍵を掛けた瞬間から、ピーターの態度は一変しました。危険を察知した私は『これって何? なぜ彼は鍵を掛けたの?』と心の中で叫びましたが遅かった。私が何を質問しても彼は無視して答えず、ナイフを手に取り『無駄な抵抗はするな』と言いました。

    凍りついた私は、身体から血の気が引いていくのを感じました。『トイレに行きたい』と言うと、彼は後ろを指差し『トイレに行く前にバッグと携帯を床に置け』と命じました。私は恐怖で震え上がり、言われたとおりにするしかありませんでした。

    トイレに入ると、ここから逃げ出す方法を考えはじめました。トイレには小窓があり、何とか脱出できる程度の大きさではあったものの、この部屋が5階にあることを思い出しました。窓から出たところで、コンクリートの中庭に真っ逆さまに落ちるだけ…。試みる勇気はありませんでした。

    頭をフル稼働して考えました。彼は私をどうするつもりなんだろうと…。23分たった頃、ドアがノックされ『外に出ろ』と言われました。そして彼は私に袋を渡し『これを身に着けろ』と言いました。私は『おなかが痛いし、気分が悪いの』と声も絶え絶えに彼に訴えました。

    『ミルクを持ってきてやる。腹痛に効くはずだ』と彼は答え、ミルクを取りにキッチンに行きました。彼に手渡された袋の中を見ると、中に入っていたのは使用済みと思われる下着でした。

    プラスチック製のカップに入ったミルクを差し出されると、『この中に何か(薬が)入っているかも?』と思ったものの、彼が手にしているナイフが怖くて飲まずにはいられませんでした。

    ピーターは再度私に下着をつけるように命じました。『なぜ着なきゃならないの?』と尋ねたものの、彼は何も答えず繰り返し命じるだけ。私は恐怖心から言われるままに使用済みの下着の中からもっとも清潔そうに見えたものを1つ選び、身につけました。そしてテスト撮影が行われたリビングルームに連れていかれました。そこは2日前とは異なり、何もありませんでした。カメラも照明もなく、アシスタントもいない。ただのがらんどうの部屋でした。

    『今から撮影する』と彼に言われたものの、私は朦朧(もうろう)としはじめました。ミルクの中にはやはり何か入っていたんです。笑顔を作るように言われたところで『どうやって?』と、頭がクラクラしました。

    撮影が終わると彼は肘掛け椅子に腰を下ろし、ナイフをちらつかせながら私に『ひざまずいてフェラチオをしろ』と言いました。言われるままにしながら、彼が持つナイフを奪えないか? それとも彼のペニスを噛み切ろうか?と考えました。でもそんなことをしたら彼は躊躇なく私を刺すに決まっています。

    しばらくすると、私は崩れ落ちるように眠ってしまいました。目が覚めると、別の場所に移されていることに気づきました。ベッドの上に寝かされ、下着はすべて脱がされて横に置かれていました。どうして裸に!? でも私は何も覚えていませんでした」

    事件のその後

    「そのときは分からなかったけど、移動されたのはピーターの部屋と同じ建物の中にある半地下の部屋でした。静かで何もない空間。部屋を見まわして脱出の可能性を探りましたが、窓には鉄格子がついていました。キッチンは何もかもが取り外され、冷蔵庫の中の小さなライトやトイレの便座さえもなかった。後日、武器になる可能性があるものをあらかじめすべて取り外されていたのだと気づきました。

    すべてが考えつくされた空間。つまり犠牲者は私だけではないはず。たった1人(私)を監禁するために、これだけ用意周到に準備するはずはありません。長い時間をかけて、準備された空間だったのです。

    木製のドア枠を引き剥がして武器にできないかと試みましたが、素手では無理。すべてが頑丈にできていました。目が覚めてしばらくすると、ピーターが食料を持ってきましたが、私は再び気絶してしまいました。次に目が覚めたとき、別の男が部屋にいました。そして…何が起こったのかは、あなたが想像するとおりです。

    次々に男が部屋に入ってきて、事が終わるとピーターが『次の男がすぐに来る』と私に伝えます。合計で…たぶん45人が私をレイプしたと思います。でも正確には何人だったのかは分かりません。

    監禁されて(たぶん)3日目。ピーターは少し慌てた様子で部屋に入ってくると、『数分後に人が来るから、準備しろ』と言いました。

    私が起きて身支度を始めると、彼は部屋を出ていきました。そのとき部屋の鍵を掛けなかったことに気づいたんです。これってまるで映画みたい…と心の中でつぶやきました。彼が部屋を出ていくとき、鍵を掛ける音がしなかった! 朦朧とした頭が一瞬で冴えたのを憶えています。

    ドアに耳を当てると、彼の足音が聞こえました。当時私は自分がどこにいるのか分かっていなかったけれど、続いて聞こえたエレベーターのドアが閉まる音に聞き覚えがありました。数日前、初めてピーターの家を訪ねたときに使ったエレベーターの音と同じ!

    彼が戻ってくるまでの時間はたぶん1分もありません。もしかして彼はエレベーターに乗ったフリをしているだけで私が逃げるかどうか試している? そんな考えが頭をよぎったものの、私は脱出することに決めました。ジャケットを掴むとドアを開け、忍び足で階段を登りました。

    階段を登ると、そこがマンションの入口だとすぐに気づきました。数日前に見た光景と同じだったからです。でもこの建物の外には確かドアマンがいたはず。彼も仲間の一味だったら? と思うと一瞬足がすくみました。

    でも私は心を決めると猛ダッシュで入口を走りぬけ、ドアノブをまわして外に出ました。そしてそのまま道路に向かって走りました。靴を履いていないことに気づかないほど、夢中で走りました。

    後ろを気にしながら走りましたが、誰も追ってこなかった。外はすでに暗くなっていたので、タクシーに乗って友人の家に向かいました。友人の家に着いたとき彼女は私の身に何かが起こったことは分かったはずですが、あまり多くを聞かないでいてくれました。

    混乱していた私は、当初監禁されていたことを誰かに話す気になれなませんでした。4日後にやっと落ち着き、警察に通報しました。でも彼氏にはうまく事の次第を説明できる自信がなかったため、会うのを避けつづけ、結果別れてしまいました。今でも彼は私がセックス・トラフィックの犠牲者であることを知りません」

    警察に通報したけれど…

    14年経ったけれど、まるで昨日のことのように思い出します。警察に通報したものの、現在に至るまでこの事件を捜査している様子はありません。最初にピーターのマンションに行ったときのことを聞かれ、強制的に連れこまれたのではないことが分かると、警察は事件として取り扱う意図がない様子でした。

    はっきりとは言わないものの、事件は私がピーターの家に行ったこと、つまり私の間違った判断から起こったことだと警察は考えたのです。私は屈辱感と共に警察を後にしました。

    その後ピーターが逮捕されたのか、分かりません。警察によると、マンションのあの部屋は事件のあった1週間だけ借りた人物がいたとのこと。しかし残された指紋は警察のデータベースにないため検索できず、携帯電話の番号もプリペイドだったため追跡は不可能。ウェブサイトのサーバーは東欧にあることは分かったものの、ピーターの所在は不明のまま。これ以上、彼を追跡する術はありません。

    事件の後、私は心を閉ざし、しばらくは何も考えることができませんでした。事件について人に語ることもほとんどなかった。でも事件を脚本にして映画(『Selling Isobel(売られたイゾベル)』)にしたいという考えが浮かんだことで、やっとあのときのことを思い返すことができたんです。

    セックス・トラフィックは世界に蔓延しつつある、恐ろしい犯罪ビジネスです。世界的ハンバーガーチェーン『バーガーキング』の2015年の年間純利益は11億ドル(約1,133億円)。対して性的奴隷を売買することで生まれる利益は年間約320億ドル(約32,960億円)と考えられています。セックス・トラフィックは東欧のどこかで行われているもの、というイメージがありますが、実際には世界中で起こっていることなんです」

    ※フリーダさんの体験は長編作品として映画化されました。予告編はこちら。

    これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
    SELLING ISOBEL TRAILER
    SELLING ISOBEL TRAILER thumnail
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    この翻訳は、抄訳です。

    Translation: 宮田華子

    COSMOPOLITAN UK