世界中でたくさんの人たちがレイプ(性暴力)の被害に苦しんでおり、「夫婦間でのレイプ」も深刻な問題。たとえ夫婦であっても、強制的であったり暴力を伴ったりするセックスは「レイプ」と認められる場合があるものの、社会的に認知されるようになったのはごく最近のこと。

コスモポリタン アメリカ版では、「夫婦間でのレイプ」を受けた女性の体験談を紹介。彼女は「同じ問題に苦しむ人々を救いたい」と願う気持ちから、勇気をもって自身の過去を告白したという。

彼は娘の育児も家事も一切何も手伝ってくれなかったけど、私のやることなすことはすべて間違っていると批判しつづけました。

デビー・リッカーと元夫のマイケル(仮名)との出会いは、ごくごく"普通"のものだった。

「彼とはレストランで出会いました。私は友だちと一緒だったのですが、彼が声をかけてきて。優しそうな人だったので、『一緒に食べませんか?』って私が誘ったんです」と、デビーは当時を振り返る。

最初は優しかった彼。でもそれは長くは続かなかったという。

出会いから2カ月も経たないうちに、マイケルはデビーに「家で一緒に暮らさないか?」と提案。少し早すぎるのでは? と思ったものの、当時30歳になろうとしていた彼女は「そろそろ子どももほしい」という思いもあり、同居に合意した。

「一緒に暮らし始めたものの、私は孤独でした。彼が私に対して厳しく、批判的になっていったからです。私は父の虐待を受けて育ったので男性のこういった態度には慣れていましたが、当時は"言葉による虐待"というものがあることすら知りませんでした

その後2人は結婚。新婚旅行から帰ると、マイケルのデビーに対するコントロールが日増しにひどくなっていった。結婚後1カ月で彼女は妊娠したものの、彼は喜ぶどころか中絶しろという。しかし子どもがほしかった彼女は夫の意見を突っぱね、出産した。

出産後たったの1カ月で職場復帰したデビーに対し、マイケルはまったく手を差しのべず、非協力的だった。彼は電気技師、彼女は精神疾患専門のケア・コンサルタントとして病院や医療施設に勤務していた。

「彼は娘の育児も家事も一切何も手伝ってくれなかったけど、私のやることなすことはすべて間違っていると批判しつづけました。当時の私は…本当に疲れ切っていました」

夫は「お前は最低の妻だ。俺にこんなみだらな行為をさせるなんて! お前のせいで、俺が汚れてしまうんだ!」と私を罵倒しました。

ある晩テレビで「産後うつ」に苦しむ母親が子どもを傷つけてしまったというニュースを見たデビー。追い詰められていた彼女は「私も娘にこんなことをしてしまんじゃないだろうか?」と恐怖を感じ、極度の疲労によるせん妄症状さえ出ている自分の状況を夫に訴えたものの、彼は聞く耳を持たなかったという。

娘を出産した後数カ月はセックスをしていなかった2人だったが、ある日彼がこう言いだした。

「お前の身体は俺のものだ。夫婦である以上、俺が好きなようにしていいはずだ」

そしてマイケルはデビーを"レイプ"するようになったのだが、当時彼女は「夫婦間にもレイプが存在する」と認識していなかった。レイプの翌朝、目が覚めると夫は「お前は最低の妻だ。俺にこんなみだらな行為をさせるなんて! お前のせいで、俺が汚れてしまうんだ!」と彼女を罵倒した。

【夫婦間でもレイプは存在する】

パートナーに対する暴力がどれだけ起こっているのかを正確に把握することは難しい、とカウンセラーであり心理学者でもあるカーラ・イヴァノヴィッチ博士は語る。

「こういった案件に対する調査数は少ないものの、パートナー(LGBTを除く)間における暴力行為の発生率は1030%と報告されています。またレイプ発生件数の約30%が夫や彼氏などの男性パートナーによるものであり、"家庭内暴力"もレイプとみなした場合、何と全体の70%が男性パートナーによるものなのです」

こうした(性)暴力についての調査が困難な理由の1つに、「婚姻関係内での性暴力も"レイプ"である」と認識している人が少ないことが挙げられる。「1993年までは、アメリカ全州の法律において"夫婦間における性行為の強制"は犯罪と見なされていませんでした。加害者が配偶者以外であるときのみ、レイプと定義されていたのです」とイヴァノヴィッチ博士は説明する。

様々な文化や宗教が共存する国において、「何がレイプと定義されるのか」は難しい問題だ。「文化的慣習はこの問題と深く関わっています。配偶者に対する強制的な性行為が許容されているコミュニティーも存在し、でもこうしたことが表に出ることは決してないからです」とイヴァノヴィッチ博士は指摘している。

【配偶者によるレイプをなくすために】

夫がデビーをレイプしたのは計4回。しかし回数以上に、心と身体に受けた傷(トラウマ)の大きさは計り知れないと彼女は感じている。

レイプされた後、産婦人科で検査を受けたデビーは医師に「激しいセックスをしたの?」と聞かれたという。「激しいセックス? そんなんじゃない! きっとレイプ中に強制的に挿入されたことで傷を負ってしまったので、医師はそう思ったのでしょう。手術が必要なほどの傷だったんです

その後デビーは第2子を出産。「息子はレイプによって妊娠したため、出産後、息子との絆をうまく築くことができませんでした」

"レイプされた"という事実を受け入れることは、デビーにとって困難な作業だった。心理療法士は「レイプされたこと」と「息子が誕生したこと」を切り離して考えられるよう治療を行ったという。

「パートナーによる性暴力は、深刻な精神疾患の発症につながることもあります。病名はうつや不安神経症、PTSD(心的外傷後ストレス障害)等さまざまですが、レイプされた人がどれだけ苦しい思いをしているのかを物語っています」とイヴァノヴィッチ博士は語る。

デビーとマイケルの結婚生活は4年で終止符を打ったものの、彼女が心身ともに受けた傷から立ち直るのには長い年月が必要だった。彼女が元夫のレイプ行為を告発しなかったのは、裁判で冷静に振るまう自信がなかったからだ。

レイプ被害にあった母親たちの多くが、法廷で取り乱してしまうんです。反面、加害者であるパートナーは冷静沈着に振る舞う。私は裁判中に取り乱すことで、子どもたちの親権を失うことだけは避けたかった。夫が一家の大黒柱としての経済力を持っている場合、裁判ではとても有利なんです」

離婚後7年間、親権の半分はマイケルも所有していたが、デビーは16年(および裁判費用126,000ドル/約1,400万円)を費やして闘い、子どもたちの親権はすべて彼女のものとした。

デビーはクリスチャン家庭で育ったキリスト教徒である。しばらく教会を離れていたこともあったが、後に信仰を取り戻した。「神への信仰があったから、ツラい時期を乗り越えることができたんです。今やっと、私の身に何が起こって、なぜそうなったのか理解できる。長い時間が掛かったけれど、やっと今の心境にたどり着くことができました」

子どもたちは成長し、マイケルとの関係は遠い過去のものとなった今でも、彼女が虐待を受けたという事実が消えることはない。彼女は現在、パートナーに虐待された経験を持つ女性たちをサポートするためのグループを運営している。彼女は「こうした活動をしているのは、傷ついた女性たちのためだけでなく、私自身のためでもあるんです」と語っている。

※この翻訳は、抄訳です。

Translation: 宮田華子

COSMOPOLITAN US