今春に、性別適合手術を受けて心身ともに女性となった経緯を赤裸々に話してくれた、タレントで振付師のKABA.ちゃん。そのKABA.ちゃんがLGBTに関するフィールドで活躍する人と繰り広げる、本音トークの第一弾! 今回は、LGBTのカミングアウト・フォト・プロジェクト「OUT IN JAPAN」などを主催する、認定NPO法人「グッド・エイジング・エールズ」の代表、松中権さんをお迎えしました。二人が考える、自分らしく生きられる社会とは

タレント・振付師 KABA.ちゃん

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認定NPO法人「グッド・エイジング・エールズ」代表 松中権さん

実際に対面するのは二度目という二人。今年9月に放送された「とんねるずのみなさんのおかげでした30周年記念SP」に「保毛尾田保毛男(ほもおだほもお)」というキャラクターが復活登場し、主にLGBT当事者から抗議が殺到した騒動のことから対談はスタート。

――保毛尾田保毛男の復活登場に関して、どう感じましたか?

KABA.ちゃん:実はあの一件で、LGBTっていう枠が苦手になってきちゃったんです。私、小さいころからオカマだっていじめられたり、陰口をたたかれたりしていて。「みなさんのおかげです」が放送されていた当時は学生だったんだけど、保毛尾田保毛男のキャラクターの「あくまでも噂で…」っていう切り返しに、なるほど、こうやってかわす方法もあるんだって良い方に捉えてたんですよ。だから今回、当事者の人たちが抗議したのを知ったときに、すごくショックだったの。そうやって受け取る人もいるんだって。

松中さん僕、実はその抗議の取りまとめ役だったんですよ。僕自身、小さいころから男の子が好きだったから、自分は女の子なのかもって思い込んでいたんです。本当はゴン美とかゴン代なのかな…とか(笑)。そこに、中学生のとき保毛尾田保毛男が登場して、男として男が好きという設定だったので、「この人だ、僕」って。それでモヤモヤが解けて、彼に救われた部分もありました。

でもその2週間後ぐらいから、保毛尾田保毛男ネタでいじめられる子も出てきて。ホモって何だ…と辞書を引いてみたら、その頃は「ホモ=同性愛。同性愛者。異常性愛。性倒錯」って書いてあったんです。「異常」って言う2文字にガーンとなって、そこからガラガラガラッとグレーの世界に入っちゃって。でも現実では明るい次男坊を演じていました。

僕自身はひどいイジメを受けた経験もなかったこともあり、今回あの復活を見た瞬間は、「あちゃー、出てきちゃった」という感じだったんですよ。一方で、あのキャラはある意味LGBTを笑いにする象徴で、それでいじめられたとかトラウマだっていう人がたくさんいるのも知ってて。ネット上のあちこちで抗議したいっていう声が出始めたので、これはきちんと取りまとめて、「世の中にこう思われてますよ」ってフジテレビに届けなきゃって。それと、このことがみんなの考えるきっかけになったらいいなって思ったんです。

KABA.ちゃん:でも、それをやったことで解決になるの? 守ることも必要だけど、それだけじゃなくて、もっと当事者が自分自身で強くなれる方法などへ導いてあげるのも大切だと思う。私は性別適合手術を受けて戸籍も変えて、女性になったことをオープンにしたけど、メディアはLGBTを受け入れている割に、「コンプライアンス的な問題もあって、ちょっとどうやって扱っていいかわかんない」と差別的な対応だったりで…。もう、コンプライアンスって何よ! どこの誰が言ってるのよ!?(笑) そうやって抗議をされちゃうと、余計にどう扱っていいか分かんないって思われちゃう。私としては、以前と同じように扱ってくれていいんだけど、そうすると何か言われるんじゃないかって思ってるんでしょうね。そこをどう開拓していけばいいかなって、今奮闘しているところです。

松中さん今は過渡期なんだと思うんです。今まではLGBTの存在もあまり見えていなかったし、差別的だと気づかず作られてきた笑いの構造もあって。発信する側も、それはよくないよねって思っている一方で、面白いものは作りたい。そんな狭間で、制作者はみんなにちょうどいいスイートスポットを探しているんだと思います。

――松中さんは今までもこういった活動をしてきたんですか?

松中さん僕が、認定NPO法人「グッド・エイジング・エールズ」をやろうって言ったのは、そもそも僕も「我らに権利を!」っていうのが得意じゃなかったから。カフェを作ってみんなで遊ぼうとか、レスリー・キーにかっこよく写真を撮ってもらおうとか、もっとポジティブなもので人が集まってきて、ムーブメントができるといいなと思って、ずっとやってきたんです。ところが、去年の夏に、それだけじゃダメだって思わされる出来事があって。

一昨年の春、一橋大学法科大学院の学生が、友人にゲイだとアウティング(公にしていないセクシュアリティなどの秘密を暴露すること)されて自殺した事件があったんですが、その1年後に遺族がアウティングした友人と大学の責任を追及して訴えたんです。

その自殺した子が僕と同じ一橋大の法学部だったっていうのもあるけど、LINEのやりとりを見たら僕とそっくりだった。彼は、LINEグループで「おれもうおまえがゲイであることを隠しておくのムリだ。ごめん」ってアウティングされたのに対して、「たとえそうだとして何かある?笑 これ憲法同性愛者の人権くるんじゃね笑」って返してて、何とかポジティブに笑いに変換したい、うまくその場をやり過ごしたいっていう感じで。僕自身も明るい自分でいなきゃってずっと思っていて、自殺しようと思ったことはないけど、それはたまたまなだけで、もしかしたら僕もそうなる可能性があったのかなって、すごくショックだったんですよね。こんなことが二度と起きてはいけない、自分にはもっとやるべきことがあるかも、と16年勤めた電通を辞めて、NPO活動に専念しようと決めたきっかけでもありました。

>>松中さん「先輩の優しさに触れて、カミングアウトしてもいいかなって思った」

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