あの歴史的に有名な宝石も、間違って知られていた?

前回の記事で、宝石の特性値として「カラット」と「屈折率」についてご紹介しました。実は、この2種類の数値がとても似ている2つの赤い石があります。それが「ルビー」と「スピネル」です。

ルビーとスピネルの特性値比較
asakasaku

ルビーといえば、真紅に輝くカラージュエリーの代表格。特に高価な宝石のひとつです。

対してスピネルは、その名を知らない方も多いかもしれません。ルビーと同じように赤く輝く美しい石なのですが、商品としても少なく、ルビーよりも市場価値が低いもの。

ところがこの数字がほとんど同じというのが原因で、世にも有名な宝石が、長く誤って認識されていた例があります。

それが初回でお話した英国王室の王冠「英国王冠」の、真っ赤な美しい宝石、通称「黒太子のルビー」です。

クラウンジュエルの帝国王冠にはめこまれた、黒太子のルビー(実はスピネル)pinterest
Time & Life Pictures

今でも名前こそは「黒太子のルビー」と呼ばれますが、実はルビーではなく、「レッドスピネル」なのです。

採れる場所さえも似ているのに加え、発見された14世紀当時はまだまだ科学的な分析技術がなかったので、長く誤解されたままだったと考えられています。

この2種類の違いですが、結晶中の原子の配置(結晶系)です。基本的な結晶の構造がまったく違うため、光学性(光を物理学的に研究し、性質を大別したもの)も異なり、よく観察すれば、輝き方や色の見え方も違った特性を示します。

ルビーの結晶pinterest
Mark Schneider

(ルビーの結晶)

スピネルの結晶pinterest
DEA R. APPIANI

(スピネルの結晶)

「あまりにも似ているから」と、世界でも有数のジュエリーを所有する英国ですら、間違って認識してきてしまったのですが、だからこそ英国は宝石を熱心に研究し、世界でも初めての宝石学機関を設立するまでに至ったのかもしれません。

宝石の色はどう決まる?

この間違いの原因となった、見た目のそっくり具合い。この色とりどりのジュエリーの色は、どう決まるのでしょう? そのひとつは、鉱物に含まれる「元素の種類の違い」にあります。

ルビーとサファイアは赤い宝石と青い宝石の代表のような宝石ですが、これらは同じ「コランダム」という同種の鉱物です。ルビーの赤い色はクロムと呼ばれる元素に、サファイアの青い色は主に鉄が原因となっています。着色元素とも呼ばれ、ほかにもマンガンやコバルトなどがあり、そのいずれが含まれるかで宝石の色が決まるのです。(※1

この着色元素や光学の分野から宝石の色のメカニズムを知ってゆくと、「アレキサンドライト」と呼ばれる宝石のように"光の種類で色が変わって見える"、その理由も知ることができます。

「科学」や「物理」というとどうしても腰が引けてしまうかもしれませんが、宝石の良さを知るためにこれらの知識は不可欠なのです。

初回でも紹介したように、ロンドンだけでも多くの博物館で鉱物やジュエリーの展示があり、鉱物学的な解説や情報も充実していますので、少しでも興味と知識を持って見てみると、より理解が深まると思います。

(※1)宝石の色には、ほかにも結晶構造そのものの違いによって生まれる色もあります。カラーダイヤモンドなどは着色元素ではなく、結晶の原子の構成から色の違いが生まれます。