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コスモポリタンの今月の特集は「グローバル」! ということで、編集部メンバーがリレー形式で「人生を変えた海外体験」をレポート。


パリは私にとって特別な街。それは、あのロマンチックな雰囲気が好みだとか、牛肉のタルタルに病みつきになったから…だけではなく。実は、初めて訪れた時の思い出が美しすぎたから。何度も繰り返し思い出していくことで美化が進み厚みを増していくわけですが、現地でのスマホ使用を最低限に絞ることで記憶はより濃厚なものになるはず。

思い返すと私が初めてパリを訪れたのは20119月。留学先で仲良くなったパリジェンヌの友人を訪ねて、3週間ほど彼女の実家に居候させてもらうことに。

当時の日本は、にわかに訪れたスマホブームの真っ只中。私も嬉々として使い慣れないiPhone3Gを持っていったのを覚えています。とはいえSNSといえばFacebookTwitterがメインストリームで、InstagramPinterestを活用する人がまだ少なかった時代。

スマホの登場で手軽に写真を撮れるようになったものの、Wi-Fiだって今みたいに飛びまくっているわけではなかったので、旅先からリアルタイムで写真をSNSにアップするという習慣が、少なくとも私にはありませんでした。必然的にスマホを構える時間も減るわけで、3週間も滞在したのに残っている写真の少なさといったら。でもこれが、あの旅を特別にしてくれた他でもない理由だと、私は感じています。

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数少ない写真のうちのひとつ。友人宅に着くと、赤いバラと手づくりのリング、そして小さなオードトワレがテーブルの上に。ロマンチックすぎる旅の幕開け。

何度でも思い出したくなる旅の記憶は、実はそんなに多くない。

たとえば夕暮れ時の運河沿いを、友人と彼女の兄と3人でドライブして、大好きなEliza Doolitte「Pack Up」を歌いながら、ご機嫌にランダバウト(円形になっている交差点)を何周もグルグルと回ってみたこと。セーヌ河に停泊している船の中につくられたナイトクラブで、ラテンダンスを教えてもらったこと。旅の間に仲良くなった友人たちとパブに集まり、いちごシロップを流し込んだビールとチーズをつまみに、ボックス席で夜な夜なトランプをしていたこと。

でも実はこの思い出、すべて写真がありません。私と、私の友人たちの記憶の中だけに存在しています。写真がないことを悔やむこともあるけれど、「むしろこの逆境が思い出を濃厚にしているのでは」というのが私の推察。

サプライズ上手な友人。みんな仕事に出かけていってしまったある朝、ひとりで寂しく起きた私の目に入ってきたのは、ホームメイドのタルトと書き置き。写りきっていないけど、奥にはフランスパンとフォアグラ、そしてジャムが並んでいてまるでブッフェ。

写真がないからこそ強烈に思い出されるものがある一方で、もちろん、写真を撮っていたからこそ、その少ないヒントの中から細い糸を辿るように思い出す記憶もあるはず。

だからSNSや写真を悪者扱いする必要はないし、私自身、写真は大好きです。でも、旅だからといって、別にすべての瞬間が特別だなんてことはないし、すべての瞬間を覚えておく必要なんてないはず。それに、一生の思い出は唐突にやってきて、スマホを構える時間がないことも多々。

それなのに今の自分だったら「どんな瞬間も全部おさめたい! みんなに共有したい!」って、ついついスマホを構えてしまいそう。 この仮説の信憑性を確かめるためにも、次の旅ではスマホを構える時間をできるだけ少なくしたいなと思います。