私は信念で仕事をしていますんで、お生憎様

さて今回も前回に引き続き、ネタは『女神の見えざる手』。主人公のエリザベス・スローンはワシントンで働く凄腕ロビイストなんですが――まずはロビイストって何?それ食べられるの?みたいな人に、ちょっとご説明を。

ロビイストは、特定の団体などが自分たちの主張を政治の現場で通すために、議員とか役人とかに働きかける(ロビー活動する)人のこと。日本ではあんまり馴染みのない職業ですが、アメリカの政界では当たり前。例えば、タバコ税が値上がりしたら困るタバコ業界とか、輸入肉に高い関税かけてほしい畜産業界とか、そういう目的がある業界団体に雇われて政治活動する人。いかにも高給取りって感じです~。

ヒロインのエリザベスは大手のロビー会社に所属する凄腕ロビイストで、その評判に目を付けたのが銃器の業界団体の大物です。アメリカの銃器の業界団体っていったら、何百億っていう単位でお金を持ってるすごい圧力団体。これが、目前に迫った「銃規制強化法案」を廃案にすべく、イマイチ少ない女性からの共感を得るために彼女を雇おうとするんですね~。「"銃で武装すれば、女子も安全に暮らせるよ"って言えば女たちも賛同する」。銃は規制すべきという信念を持つ彼女は、これを笑い飛ばした後、ややキレ気味に言い放ちます。

「私の評判って、倫理的にフワフワってこと?安全と言えばそれだけで女が靡くとでも?いかにも、おっさんたちが考えそうな陳腐なアイディア!」。

めちゃめちゃ強い!と思いますが――そうです、この世に、頭の先からつま先まで「強い女」なんていません。

仕事なんだから、感情的に崩れてはいられない

エリザベスは映画の冒頭でこんなふうに呟きます。

「ロビー活動は予見すること。敵の動きを予測し、対策を考えること。勝者は敵の一歩先を読んで計画し、相手が手の内を見せた後、自分の切り札を出す」。

彼女の何が凄腕って「策士」、勝つために敵をハメるプロなんですね。そもそもが騙し合いのような政治の世界で、これをやるには相当な冷酷さが必要です。感情に流されないこと、人を信用しないこと、利用できるものはすべて利用すること。

結局会社を事実上クビになった彼女は、「銃規制」実現の側に立つ弱小ロビー会社で働き始め、「勝つため」のこの手法を実践し始めるのですが。まあこんな人の部下になったらぶっちゃけたまったもんじゃありません。映画でも、部下たちは全然信頼されず、時に意味が分からぬまま役目を外され、時にだまし討ちのようにムチャ振りされ、味方なのに「まんまとハメられる」なんて人も。「すっげー」「さすが!」と素直に思える信奉者以外は、ほとんどついていけません。

このヒロインを演じているジェシカ・チャスティンが素晴らしいのは、そういう強気の合間合間に、一瞬、くずおれそうな表情を見せることです。強気で撥ね付けてクビを言い渡された瞬間に、揺らぐ自信。就職活動したもののイマイチだった時の「まずったかな…」という弱気。トイレの個室で誰にも知られないよう飲む抗不安剤。「勝つこと」への強すぎる執着のせいで、深まる孤独。「いつも気づかずに、一線を越えちゃうのよ」という素直な謝罪を、「気にしてもいないくせに」と拒絶される寂しさ。でも――ここで感情的に崩れたら負けてしまう。人知れず踏ん張るその姿は、あなたの、そして私の姿。働く女子ならグッとくるに違いありません。

「強い女子」の役を演じることについて、ジェシカはこんな風にツイートしています。

これはxの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

「(彼女が演じるような「強い女子」は現実にはいないと仄めかす連中に)怒ってるんじゃないわ。私は議論し疑問を投げかけようとしてるの。なぜ映画の中に"強い女子"の役が稀にしか描かれないのか。実際の社会にはいるのに」

『女神の見えざる手』

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