当時はファスベンダーの裸にしか目がいきませんでした。

マイケル・ファスベンダーに関する長めの原稿を書くために、過去の作品をいろいろと見直していたのですが、誌面に使う出演作のスチールを選ぶときに、これは絶対に外せないよねと即決まったのが『シェイム』――30代のセックス依存症の男の日常を描いた作品です。日本での公開当時のことをすごくよく覚えていますが、二枚目俳優ファスベンダーがオールヌードで出ている、海外の映画祭でも物議をかもしたそれはそれは過激な映画らしい、それって日本では公開できるの?的な噂で、日本の映画業界は持ちきりだったこと覚えています。

でもって今回、海外でのインタビューなんかもいろいろ読み、そのうえで映画を見直してみて、つくづく思いました。なんていい映画なんだろうと。ヌードばかりに気を取られていた、当時の私のなんたるバカさ。もちろん「やっぱり世の中には正義のヒーローが必要!」とか「私が求める理想の王子様」という結論でヒャッホー!な気分にしてくれるハリウッド映画も、私は決して嫌いじゃありません。『キャプテン・アメリカ』も『アイアンマン』も『マジックマイク』も『美女と野獣』も大好き。

でもそういう映画しか見てこなかった人には、「セックス依存症が陥った袋小路(つまり全然治らない)」を見せられても、「で、どうしろっていうの?」的に言われてしまいます。もしくは「"セックス依存症の男"とかそれだけでダメ」と言って、見てくれない。ま、わかりますよ、わかるんだけども。

セックスに依存度の高い男は、依存症の男だけじゃない

もちろん私だって、こんな男と友達には決してなりたくない。営業部の**さんってセックス依存症らしいよ、会社がPCをチェックしたらエロ動画だらけで、取引先の女の子にのべつまくなしに手を出してるのが問題になってるし、トイレでひとりでやってるのも目撃されている……なんて話を聞いたら、勘弁して**さんの触ったものキモくて触れないとか思うと思います。

でも映画は「確かに人間ってこうなんだよね」っていう感じが大事で、『シェイム』にはそれがある!と熱弁し、まあ要するに私はこの映画をすごーく買っているわけですが――女子としてはマジで恐ろしいと思う場面もあります。それは冒頭、主人公ブランドンが地下鉄の中で、なんとなく一人の女子に目を止める場面です。

まず男の視線に気づいた彼女、目が合ってごまかすように微笑みます。彼が送り続ける視線にその後もなんとなく応じていたのですが、ふいに男が組み替えた脚に目をやっていることに気づき、居心地が悪くなって立ち上がる。男も立ち上がって彼女の後ろに立ち、彼女が手すりをつかむ手に少し触れる。明らかに顔色を抱えた彼女は、扉が開いた途端に飛び出す。追う男。彼女は階段を駆け上がり、男はそれに追いすがり――人ごみの中に彼女を見失います。よ、よかった……。

この場面は映画の構造として意図的にこんなふうに作っているのですが、見ていて本当に怖い。笑顔だけで向こうもその気と判断したこと、そしてそう思ったらそこから突き進んでいく姿が衝撃です。てかこういうのをどれだけ女子が怖いと思うのか、わかっていないんだろうか。男たち。ファスベンダーみたいなイケメンでも、ぜんぜん関係ないんですけど。

セックス依存症って怖いわ……と思っていたらNHKの某番組のアンケートで、「ふたりでご飯」「ふたりで飲み」「車に乗る」「泥酔」でセックスの同意を得たと思っている男があまりに多いことを知りました。自分に都合のいい理解は依存症の人だけじゃないみたいなんで、どうぞみなさん気を付けて。

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