ハリウッドが変わる?『ムーンライト』の作品賞【よしひろまさみちの私的エンタメ】

おネエ系映画ライター・よしひろまさみちが「いま気になるエンタメ」をお届け!

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呼ばれて飛び出た映画ライターのよしひろまさみちで~す。コスモポリタンの読者の皆様、はじめまして~。なにやらハリウッドがザワザワしているということで、オネエ……というより、ただの映画好きオジサンオバサンが解説させていただきまする。

みなさんもご存じの通り、今年のアカデミー賞授賞式(以下オスカー)は大荒れのエンディングを迎えました。あたしもWO●OWで中継を観ながら「あ~、なんか予想通りの展開。このまま終了ね」なんて思っていたところ、肝の心なオーラス作品賞の発表で大波乱。マジでビビった全世界。こんなことって起きるのね~……。

(左)ホントに間違いだったことを知ったジェンキンス監督。オネエっぽい仕草だけど、彼はストレートです。(右)『ラ・ラ・ランド』のプロデューサー、ジョーダン・ホロウィッツからハグされるジェンキンス監督。ホロウィッツは「お前こそ漢だ!」と、現在全米で大好評。

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ただね、今年のオスカーに関してはあの問題だけでなく、いろいろとみなさんに知って欲しいことがあったので、ちょいと振り返ってみましょう。

まず作品賞を受賞した『ムーンライト』と、それを一瞬授与しちゃった『ラ・ラ・ランド』。すでに『ラ・ラ・ランド』は日本で公開中だからご覧になっている人も多いかも知れないけど、この2作は本当に対局にある作品なの。ものすごく単純に言うと前者は地味なマイノリティ映画、後者はドハデな白人社会懐古主義ミュージカル。前哨戦を勝ち抜いてきたのは後者、だけどいつも対抗馬は前者。しかもオスカーは人種差別を取り扱った作品にはやさしいものの、LGBTQを扱う作品には手厳しいという伝統もあってね。たとえば05年に"最多ノミネートで作品賞も確実!"とされたゲイ映画の大傑作『ブロークバック・マウンテン』は、監督賞、脚色賞、作曲賞の3部門だけで肝心カナメの作品賞はスルーされちゃったり。しかもしかも、このトランプランドな"表現の自由"に対する不安の中だから、アカデミー会員は「ラララ~♪」っていう感じで、現実逃避的な投票をするんじゃないかって思われてたのね。それがどーよ。トランプランドの不安の中だからこそ、ちゃんとした評価を下したって、めっちゃカッコイイ話じゃない!

(オスカー翌朝のデイミアン・チャゼル監督とバリー・ジェンキンス監督が業界誌の表紙に!)

では、その『ムーンライト』についてちょいと詳しく。ストーリーはテキトーにググってちょうだいね。あたしは他に伝えたいことがあるの!

予算はなんと約150万ドル。『ラ・ラ・ランド』が約3000万ドルだったから桁違いに低予算なのね。作品賞受賞レベルの脚本でも、製作陣にブラピがいても、新人監督の黒人貧困層&セクシャル・マイノリティ映画にキビシーのは資金集めってことよね~……。よって、撮影期間は25日。主人公を演じた3人の男優は顔を合わせる時間がなかったくらい(結果的にはそれが功を奏したって監督は言ってるけど)。助演女優賞候補になったナオミ・ハリスのシーンなんて、3日間で撮了したってんだからド根性!

この映画の原案は劇作家タレル・アルバン・マクレイニーの短い戯曲で、映画の舞台になったマイアミの公営住宅街リバティ・シティで暮らす少年と麻薬密売人のお話だったの(それ単体としては舞台劇にも映画にもできないくらいのものだったそう)。それを監督のバリー・ジェンキンスが手にしたのが運命だったのね。ジェンキンスとマクレイニーはそれまで全く面識はなかったものの、じつは共にリバティ・シティで生まれ育ち、同じ小学校に通い、しかも劇中同様に重度の薬物中毒の母を持つということがわかったの。だもんだから、監督はこのストーリーで描かれる環境や人々について自分自身のこととして受けとめられたのね。

なんかこれだけでも『ブロークバック・マウンテン』を思い出すのよ……。っていうのも『ブロークバック~』も、それだけじゃ映画にはならない短編小説を原案に、主人公の20年もの年月を描いて、大作というには安い予算(でもスターキャストだったから1400万ドル)で撮ったんだもの。しかも『ブロークバック~』は全世界的にゲイが差別されていた時代の白人男性が主人公で、『ムーンライト』は世界的にはLGBTQが認められつつあるけど「この街じゃ許さないよ!」っていうマッチョ思想な環境の黒人男性が主人公。どっちも暮らす環境からアイデンティティを追い詰められて苦悩する主人公を、普遍的なラブストーリーとして描いているんだもの。これでシンパシー抱かずになんといいますか!

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また『ムーンライト』にはもう1つ、マイノリティにうれしいニュースがあったの。それが製作会社のプランBエンターテインメントでブラピとともに共同社長を務めるデデ・ガードナーのこと。彼女はこの受賞によって、女性プロデューサーとして2つ目のオスカーを手にした初めての人になったのよ(1つ目は13年の『それでも夜は明ける』)。ちなみにジェンキンス監督の大学時代の友人で本作のプロデューサーを務めたアデル・ロマンスキーも女性だけど、ハリウッドでは女性監督や女性プロデューサーはまだまだマイノリティなのよ……悲しいことに。以前、『スター・ウォーズ』を手がけるキャスリーン・ケネディ(ルーカス・フィルム社長)や『アリス・イン・ワンダーランド』を手がけるスザンヌ・トッドに取材したとき、「あなたのようなパワーある女性がハリウッドにいるとそこを目指す女性には心強いのでは?」って聞いたことがあるんだけど、彼女ら、別々に取材したのに同じこと言ってたのね。それが「いや……それはまだまだよ……」。ガビ~ン、ハリウッドの頂点にいる人でもコレ!? そりゃトップ女優達が「男優との処遇差を是正すべき!」って騒ぐわけよ。だって、スタッフから意識変えないとダメだもん。

デデ・ガードナーとブラピ。今年の授賞式は2人とも欠席でした。

というわけで、『ムーンライト』が作品賞を受賞したことによって得られたことはとても多いのよ。

●LGBTQを主人公に描いた作品でも、オスカーのチャンスはあるという希望。

●現代米国社会の暗部でもある黒人貧困層にスポットを当てた作品が受賞したことで、これまで映画ではスルーされ続けてきた様々な案件にも光を当てる機会が生まれる。

●プロデューサーほか映画の表舞台ではなく裏方仕事でがんばる女性達が認められる機会が増える。

もちろん作品そのものが素晴らしかったから正当な受賞なんだけど、これからのチャンスを切り開く礎を創り出した出来事。なんだか最後の最後でのハプニングのせいで、ワチャワチャしたまま授賞式が終わっちゃったせいで、ハプニングばかりが注目されちゃったけど、今年のオスカーはとてもエポックメイクだったのよ~ん! しかも『ラ・ラ・ランド』のプロデューサー陣(男祭り)が自ら『ムーンライト』のプロデューサー陣(女性&黒人祭り)にオスカー像を手渡しするなんて、それが演出だったとしても感動もん(演出じゃないけど)。やさしさと寛容、受容力、それに互いへのリスペクト……あの舞台上の大混乱で見えたこれらを持ち合わせた人がもっと増えればいいのにね~。

『ムーンライト』

Story:マイアミの貧しい地区に生まれ育ったシャロン。学校ではいじめられ、家ではドラッグ依存の母に育児放棄されていた彼は、麻薬ディーラー・フアンだけが心のよりどころだった。

監督:バリー・ジェンキンス/出演:アレックス・ヒバート、マハーシャラ・アリ、ナオミ・ハリス ほか/配給:ファントム・フィルム/公開:3月31日より、TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー

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