【悶々26】「あなたに従って生きること」の奇妙な平穏

彼と出会って私は変わった。以前は母の望み通りに生きてきたけれど、今は彼に愛されることが私の喜び――って変わっとらんやろが。

人気の記事

俺色に染まる、真っ白いキャンバスの君

この間まで「丸の内のデキる女風」だったのに、久々に会ったらなぜか「ニューヨークのパンクロッカー風」で、あらあら、と思っているうちに、「香港の金持ちマダム風」になってる――みたいな女子を見ると、コスプレ世界一周すごろくかしら、自分探しにハマり中かしら、己を変えるためまずは形からみたいな自己啓発系かしらと、いろいろと想像をめぐらしてしまうのですが、なんのこたない、男が変わっただけだったりします。

ADの後に記事が続きます

男が変わるたびに別人になってしまうこういう女子、結構いると思います。言われたことないんでわかりませんが、「君は真っ白いキャンバス、俺色に染める」とかなんとか言われてしまうんでしょうか。文字にしただけで盛大に噴きましたが、なにしろ恋愛とは酩酊状態のことですから、こうしたものにキュンとして「あなた色に染まるのが私の喜び」的展開になってしまうのかもしれません。もちろんぜんぜん否定しません。恋愛に限らず一番楽しいのは「踊る阿呆」ですし、私は常に「踊る阿呆」を肯定する「見る阿呆」でありたい。とはいえ周囲が全然見えなくなるほど踊り狂っちゃう人には、なんであれちょっと危険なものを感じます。

これまでの「見る阿呆」経験から導き出した危険なタイプ、それはやっぱり「真面目」と言われ続けた優等生や、厳しい家庭で「いい子」として育ってきた人です。私は恋愛によって以前とは違う自分になった――そんな実感は快感となり、自分が殻を破るきっかけを作ってくれた男への強大な信頼感を形成してゆきます。もし今まさにそんなことを経験し、そんな風に思っている女子がいたとしたら、私は言いたい。

あなた、全然変わってませんよ。殻を壊して自由になったわけじゃなく、別の殻を見つけただけです。

支配から支配へと渡り歩く女

さて今回のネタも、前回に引き続き『ラブレース』。ヒロインは70年代の伝説のポルノ映画『ディープスロート』への出演で大スターになったリンダ。彼女が出会ったばかりのチャック・トレイナーと結婚したのは、支配的な母親から逃れるためでもありました。当初、リンダにおける「母親が否定する部分」を全肯定してくれたチャックを、彼女が「自分を救い出してくれる王子様」のように感じてしまったのは無理からぬことです。その信頼感からか、リンダは今度はチャックの支配下に自ら入ってしまいます。ファッションも髪型もチャックの完コピになり、言いつけ通りに禁煙、小遣い稼ぎの売春を強いられ、嫌だといえば暴力を振るわれ、〇ェラ〇オを「練習しろ」と仕込まれ、それをビデオに撮られ、ポルノ女優として売り出され――とまあ女性虐待のフルコースを味わうことになります。

もちろん逃亡も試みます。でもその先が母親の元――以前の支配者のもとだというところに、彼女の呪縛の根深さを感じます。これが普通の母親であればそれで正しいのでしょうが、リンダの母親はガチガチのカトリックで、ティーンエイジャーで妊娠した娘を「ふしだらな女」と呼び、堕胎を許さず、周囲に知られることを恐れて引っ越しまでした母親で、「夫に従うこと」を道徳としたカトリックの「神聖な結婚生活」から逃げてきた娘を、「周囲に何を言われるかわからない」のに、かばってくれるはずがありません。

でも私が最も驚いたのはチャックから生き延びて6年後、出版した自伝が話題になって出演したテレビ番組での、リンダのこのセリフです。

「こんな虐待を、神様がお許しになるはずがありません」。

キリスト教の世界では何の抵抗もないのかもしれません。「夫に従え」と言ったのも「離婚は許さない」と言ったのも「ふしだらな女」と言ったのも、すべてキリスト教だったのに。リンダがみたび、「新たな殻」に入り込んでしまった。何かに盲目的に従うことで得るその奇妙な平穏に、私は悶々としてしまうのでした。

 【女子の悶々】記事一覧はこちらでチェック

コメントする

More from Cosmopolitan Japan:
映画
シェア
「ご飯」や「飲み」の約束は、単にそれだけの同意
それのどこをどう考えれば「セックスOK」になるのか、さっぱりわからないんですが。
カンヌ国際映画祭で注目された話題の7作品を振り返り
映画
シェア
観たい!カンヌ国際映画祭で、今年注目された7作品
国際色豊かな作品と、俳優、監督が語る映画への情熱を現地レポート!
映画
シェア
多数派でいれば何の心配もない、と思います?
みんなが行く方向ならなんとなく安心、なんとなく正しい気もする。でも「なんとなく」って「根拠はないけど」って意味ですよ。
現場では仲良くなかった!?名作映画の『理想のカップル』7
映画
シェア
現場では仲良くなかった!?名作映画の『理想のカップル』7
意外…
映画
シェア
お家で鑑賞♡「雨の中の名シーン」を楽しむ映画7
雨降る日は映画日和!
映画
シェア
死者との交信が描かれる!?ミステリアスな映画で美人女優が共演♡
ナタリー・ポートマンとリリー=ローズ・デップが映画『プラネタリウム』で姉妹役に!
映画
シェア
「男のくせに」と言った瞬間、あなたの中に生まれるもの
「女のくせに」と言われるとカチンとくるけど、つい言ってしまう「男のくせに」は、実は……。
映画
シェア
育ててくれた人、すべてに感謝したくなる!
おネエ系映画ライター・よしひろまさみちが「いま気になるエンタメ」をお届け!
COSMO的「6月に観るべき映画」5選
映画
シェア
『フィフティ・シェイズ・ダーカー』も♡6月観るべき映画5選
官能の世界に引き込まれる『フィフティ・シェイズ・ダーカー』ほか、6月に観るべき映画はこれ♡
『ワンダーウーマン』 ガル・ガドット
映画
シェア
映画『ワンダーウーマン』が話題になっている4つのこと
主演を務めるガル・ガドットは元兵士!? 世界で話題になっている4つのニュースを解説。