ジェントルで柔軟で謙虚、加齢臭ももちろんなし

さて前回引き続き『マイ・インターン』。主人公はネットのアパレル通販サイトをCEOとして運営する主人公ジュールス。会社は急成長して仕事は順調ですが、私生活では子育て中の専業主夫の夫が密かに「ママ友」と関係を持っていることを知り、大ショックを受けています。そんな彼女を支えるのはシニア・インターンのベン、70歳。この映画が働く女性の猛烈な支持を得たのは、アン・ハサウェイ演じる少々自分勝手な女子が共感を集めたわけではなく、彼女を公私に渡って支えるロバート・デニーロ演じるベンが素敵すぎた、それに尽きると思います。

ベンの魅力はあまりにたくさんあって、どこから話していいのか分からないのですが、一言でいえばジェントルマンであることです。

常にクラシックなスーツを上品に着こなすベンは、妻とは死別していますが、家の中にも乱れた場所はひとつもありません。ウォークインクローゼットの棚にはシャツが畳んで積み重なり、たくさんのネクタイが裾を合わせてキレイに下がり、ハンカチやポケットチーフも所定の引き出しにきちんと収まっています。

職場の若い衆は皆カジュアルですが、自然体のベンは無理してそれに合わせようとはせず、ネクタイとスーツにアタッシェケース。いざという時に女性に貸すために、ハンカチも必ず持っています。髪はきちんと整え、オッサン特有の加齢臭はありません。嗅いでませんけども。

その紳士ぶりはファッションのみにとどまらず、相手の話をきちんと聞き、いつも微笑みを絶やさず、穏やかで声を荒らげることも決してありません。たとえ相手が自分に敬意を払わなくても自分は敬意を忘れず、それは相手がたとえ40歳以上年下でもまったく変わりません。この年齢のおっさんにありがちな頑固さはみじんもなく、TwitterであれFacebookであれ新しいことを受け入れ楽しむ柔軟さと、年下の人間に教えを乞える謙虚さもあります。

疲弊した全世界の女子に必要なのは、こういう部下なんだよ!

ここまで書いてすでに、そうそういないツチノコ級の素敵なオジ様ですが、ベンはさらに2~3段上を行きます。ベンはジュールスを決して否定せず、ましてや説教なんて絶対にせず、常に「あなたはすごい」「自信をもって」と言い続けてくれます。ジュールスが飲み過ぎて粗相をしてしまった時も、いざという時のハンカチを取り出して介抱してくれ、寄りかかる胸を貸してくれます。普通のオッサンならば「ここまではジェントルマンだったのにね……」となる場面ですが、ベンの本当のすごさは、これ以降においても完全なジェントルマンであることです。いかんいかん、我慢我慢、的な描写さえありません。

つまりベンは、ジュールスをレディ扱いはしますが、よこしまな考えはまったくもっていないんですね。ベンは慈愛に満ちた父親みたいなもので、甘えさせてくれ「よしよし」はしてくれるけど、決してセックスは求めない、ほとんど三島由紀夫の世界 です。仕事に――いやいや、家事や子育てにも――疲弊した女子に必要なのはまさにこういう男なんだよー!と号泣しながらスクリーンに叫んだのは、きっと私だけではないはず。

映画にはジュールスの専業主夫の夫がベンに「僕とベンはまるで兄弟だ」と言う場面があります。このセリフは言い得て妙で、夫とベンの違いはセックスのアリナシだけ。ふたりは最後の最後まで「女性差別は間違っている」「君が正しい」「君が思うようにやればいい」とジュールスを全肯定してくれます。すべてがジュールスの望むところに落ちてゆく物語にリアリティがあるとは思いませんが、ハリウッド映画のほとんどが男性監督による男を喜ばすための映画なんですから、女性監督が撮った女子を徹底的に喜ばせる映画に、女子が浸って何の悪いことがあろうかと思います。

とはいえ現実の世界で「ベン」を探し求めたら、それは新たな悶々の始まりです。ベンは絶対に絶対に存在しない、「白馬の王子様」ならぬ「白馬のおじ様」なんですから。

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