手伝ってもらわなくても大丈夫、だって私にしか分からないから

会社勤めしていたわずかな期間、「面倒くさいなあ」と感じる人のトップは「仕事を抱え込む人」でした。そういう人って、忙しい忙しいと言いながら夜遅くまで残業していて、見かねて「手伝いましょうか」と言おうもんなら、「大丈夫、大丈夫、私にしか分からないから」と軽くマウンティングされたりして、あちゃー、乗っかられたー、いやいや、戦い挑んでるわけじゃなく、だってあなたクマできてるし、髪ボサボサだし、私生活なくなっちゃってるみたいだし、気の毒だなーと思って要するにつまりは親切心で――と、弁解してみたりするのですが、降りて頂けるどころか「だから大丈夫だってば(怒)」と絞め技がキツくなったりもします。

フリーランスの私からすれば「会社勤めだったら給料変わらないんだし、仕事少ない方がいいじゃん」とか「いざという時は誰かに代わってもらえるほうが、休みとりやすいじゃん」とか思うんですが、仕事により社内の「地位」や「居場所」を得たい人は、それを奪われることへの警戒心もあるだろうし、周りもそういう人だと思っているから他人を信じる気になれないのかもしれません。

さて今回のネタは『マイ・インターン』。主人公ジュールスは、ファッション通販のサイトのCEOとしてバリバリと働く30代。物語は、彼女の下でシニア・インターンとして働くことになった70歳のベンとの交流を描いてゆきます。

ジュールスは子育て中にファッションのサイトを立ち上げて成功、これを大きなビジネスにまで育てた女子です。でもビジネスの世界でオッサンたちに「ギャル」扱いされてきたのか、「負けるもんか!」と肩ひじ張って頑張り過ぎているきらいがあります。

それは働き方にも表れていて、彼女は社員200人規模の会社のCEOなのに、企画や販促はもちろん、撮影の立ち合いやサイトデザインのディレクションもやるし、「勉強になるから」とカスタマーサービスの電話に出るわ、配送工場に足を運んで美しい梱包の仕方の指導までするわでてんてこ舞い。そこまで他人に任せられないなら、個人商店にしたほうがいいぞ!って感じの"どぶ板"ぶりです。

もちろんそれなりの規模の会社でCEOがそんなことしてたらおっつくはずもなく、会議にいつも遅刻する彼女を「ジュールス時間」なんて揶揄する人もいて、投資家から「企画に専念して、経営は外部からプロを招いて任せれば?」なんて言われてしまいます。至極当たり前の提案ですがジュールス的には大ショックで、「新しいCEOは出資者の言いなりかもしれないし、その人の許可なしで何もできなくなる。私がエリートじゃないから?なんならCEOのレッスンを受けるから!」と涙ながらに訴えます。

私はこんなに一生懸命働いているのにーっ!

映画にはもうひとりの「仕事を渡せない女子」、ジュールスの秘書のベッキーが登場します。名門大学で経営学の学位を取ったベッキーは、猛烈CEOのジュールスの仕事ぶりに合わせて、朝7時から夜の11時までビッチリと働いています。ところがある日、それまで会社の隅っこにいたシニア・インターンのおじさん、ベンが、ジュールスの信頼を獲得して、自分のデスクのすぐ横に引っ越してきます。この事態に今度はベッキーが、「50も年上の耳の遠い人に負けるなんて!」と、はなはだ失敬な言葉をベンに浴びせかけながら号泣します。

この2人の悶々が爆発する理由は、ある意味でまったく同じです。彼女らは「自分はこんなに一生懸命なのに」の一点で頭がいっぱいなんですね。おかげで周囲への配慮を完全に欠いています。

特にジュールスは、娘のママ友と笑顔で接しながら「なんで働く母親が批判されなきゃいけないわけ?」という被害者意識がダダ漏れだし、自分のキャリアを諦めて専業主夫になってくれた夫を「妻の成功で男のプライドが傷ついたなんて、良くある話」と言ったりする。自分とほぼ同じ苦悩を抱えるベッキーの頑張りを褒めたことも一度もありません。一生懸命なのはわかるけれど、私が!私が!と主張しすぎるのは【悶々18 】と同じ強すぎる承認欲求の一形態なんで、あんまり幸せな方面には向かいません。

確かに、女子のこうした悶々は、女子にとって仕事の「地位」や「居場所」の確保が難しいことの裏返しかもしれません。でもね、特に20代の女子に気づいてほしいのは、今の時代、下手をすれば60歳まで働く羽目になるんだから、30代前後でハイパーに飛ばし過ぎても長続きしないということです。

様々な失望や挫折を経験し、同期入社が1人辞め2人辞め、20年後に残って事業本部長まで出世したのは、新卒採用時には最も凡庸なヤツだった、なんてこともよくある話です。私は「ラストマン・スタンディング」という言葉が好きなのですが、結局のところ勝利するのは攻撃し続けた人じゃなく、雨も風も燃え尽き症候群にも耐え凌ぎ「最後まで倒れなかった人」。女子たち、しぶとく、生きるべし。

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