【悶々19】「私が着飾る理由」と「私が着飾らない理由」

『プラダを着た悪魔』は、本当に"ファッションの味方"映画なんだろうか説。

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世間が「膝を出すな!」と言っても、私はミニスカートがはきたい

「インタビューネタは映画、誌面はファッショングラビア」的な仕事の時、撮影スタジオにいるのが自分以外はみんなファッションピーポー、みたいなことがあります。誰もが「流行のスタイル」だったり「ブランドもの」だったりで、「とんでもないところに紛れ込んじまったな…」といたたまれない気持ちになるのですが、一方で「この格好はアリなんだ……」という人もいたりして、門外漢には分からないファッション業界の奥深さと計り知れなさに戦慄します。

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ファッション業界の内幕物と言えば、多くの女子が真っ先に思い出す映画は『プラダを着た悪魔』でしょう。主人公はジャーナリスト志望のアンディ。何の間違いかハイファッション誌「ランウェイ」の編集長のアシスタントに採用され、「ずっとここにいるわけじゃないし」とお婆ちゃんの"お古"みたいなセーターとスカートでやり過ごそうとする、見習いたいような見習いたくないよな、超絶肝の太い女子です。頭が良くて硬派な彼女からは「おしゃれに夢中な女子は十中八九アホ」的な感じが臭い、そうした有り方を鬼編集長ミランダに「あんたファッションをナメてんの?」とばかりにぶった切られてゆきます。

映画には「ファッションはアイデンティティ」というセリフがあるのですが、これは特に女子にとってはものすごく真実です。例えばココ・シャネルが20世紀初頭に生み出した「シャネル・スーツ」や「リトル・ブラック・ドレス」は、それを着る女性たちにとって「活動的な女」の象徴でした。当時の女性ファッションの三種の神器は、コルセット、長袖、フルレングスのスカートで、メイドに手伝ってもらわないと着られない"ホンマかいな"な代物でした。そのシャネル大先生も「膝を出すのはありえない」と言っていたのですが、1960年代のミニスカートの大流行がこれを打破。ウーマンリブ(女性解放運動)の一面もあったそれは"社会が望む慎ましい女性像"に反発した女子たちの、「私は着たい服を着る!」という主張だったわけです。

"野暮ったい女"しか、硬派な新聞記者にはなれない?

つまり女性のファッションは、その時代や社会が女性に許す社会的な在り方と"合わせ鏡"なわけで、女性の社会進出が進めば進むほど、女性のファッションは自由になる――のかと思いきや、あれ?と思わされるところが、実はこの映画の中にもあります。それは「ランウェイ」の編集部を辞めたアンディが、ついついないがしろにしていた恋人に謝る場面です。引用してみましょう。

「あなたの言う通り、私は友人や家族、信念にさえ背を向けていたわ。一体何のために――」

「靴さ。それからシャツやジャケットやベルトのため」

「私を許して」

ここまでファッションを肯定してきた映画で、え?アンディ、そこ?そこ謝るの?と、私は少し妙な気持ちになりました。だってアンディが周囲をないがしろにしてきたのは、悪魔みたいな上司のせいで仕事がめっちゃ忙しかったせいで、ファッションを楽しんでいたこととは直接的には無関係だからです。そもそもミランダの下についたばかりのダサい頃にも、十分に父親をないがしろにしてますから。

この後、アンディは革ジャンにオッサンみたいな鞄で新聞社に面接に行き採用されていますから、これまで以上に忙しくなるのは明白です。誕生日をすっぽかされてスネた恋人は「新聞記者の仕事が忙しい」という理由なら、そういうのも許してくれるんでしょうか。アンディは「ランウェイ」時代の服を全て手放してしまいますが、そこにもなんか悶々とします。私ならドレスの一枚、靴の一足くらいは残すなあ。だってファッションは「仕事の私を演出するため」だけに必要なわけじゃないし、「新聞記者だから着ていくところない」なんて紋切り型、つまんなすぎ。

イスラム教徒の女性は、黒いベールの下に華やかなドレスを纏っている人も多いと聞いたことがあります。ベール着用義務には様々な議論がありますが、皮肉にも、だからこそ他人の目は無関係の"自分のファッション"がそこにはあるのでしょう。本来なら、私が着飾るのは「誰かの気を引くため」じゃなく私のためだし、私が着飾らないのも「誰かに文句を言われないため」じゃなく私のため。オシャレな新聞記者が完成!とはいかない私たちのファッションは、自由を手に入れているようで意外と自由じゃないのかもしれません。

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