「学園の女王」だった女の、その後の人生

「スクールカースト」なんて言葉がひとしきり流行りましたが、イジメにまで発展はしないまでも、中学高校内でのなんとなーくの「階層」はどこにでもあるものです。

内部での活動が「勉強する」「部活する」「恋する」程度しかなく、別の組織との交流も極めて限定的な学校というコミュニティでは、人を測る価値基準は「成績がいい/悪い」「運動神経がいい/悪い」「顔がいい/悪い」「華がある/地味」程度しかなく、例えば「金を稼げる/稼げない」なんて価値観が突如乱入して来て、地味でぽっちゃりのパソコンオタクが最上位に躍り出る、なんて価値観の転覆はほぼ起こりえません。非常に強固ですが、大人になると「どーでもいい」としか思えない価値基準です。

まあそんなことをふまえつつ、今回のネタはシャーリーズ・セロン主演の『ヤング≒アダルト』。主人公のメイヴィスは、かつて地元の田舎町の高校で、カーストの最上位「学園の女王」として君臨していた女子です。その美しさゆえに「自分は特別な人間」と思い込んで生きてきた彼女ですが、37歳になって「もしかしてそうじゃないのかも」と感じることもしばしば。というのも、都会でやってるフリーライターの仕事はいまいちパッとしない、それどころか大きな仕事の打ち切りが決定という大ピンチ。プライベートでは結婚に失敗し、恋人もいない今は犬だけが心の慰めです。

そこに飛び込んできたのが、高校時代の恋人、バディから「赤ちゃん生まれました!遊びに来てね!」的な幸せそうなメール。なんなのなんなの!こういうの送ってくるって嫌がらせ?とひとしきり怒った末に、「そや!」と思い立った彼女は、久々に故郷に帰ることに。自信を取り戻そうと、彼女が目論んだのは「学園の女王」の座への復帰。都会じゃ無理だけど、シャビーな故郷の田舎町なら、この美貌でまだまだイケるはず!と真剣に思い込むメイヴィスの暴走が始まります。

「学生時代の延長」は「学生時代」とは違うもの

さて「学園の女王」時代のメイヴィスはどんなだったのでしょうか。映画の中の元同級生たちの証言から、当時のメイヴィスを類推してゆきたいと思います。ナイスバディの金髪美人ぶりは、まあ演じているのがシャーリーズ・セロンですからそのまんまとして。まずは当時、彼女の隣のロッカーを使っていた、いじめられっ子の証言①

「いつも鏡ばっかり見てて、隣にいる僕のことは一度も見なかった」

セルフィーが当たり前の今の子はみんなそうですけど、自分が大好き。そしてショボいいじめられっ子のことは今も昔も眼中になく、実際に話してみてもしばらく思い出しません。

いじめられっ子の証言②

「僕をボコボコにしたやつは、みんな君と"関係"があったおとりまき」

派手ないけすかない連中にちやほやされて、彼らと片っ端からセックスしてる尻軽です。

引き続きいじめられっ子の証言③と、元恋人バディの証言、さらに下級生女子の証言

「君のような女は、男ならみんな憧れる」

「君と別れるような男はバカだ」

「誕生日にあなたのロッカーにクッキーを入れた」

そのモテモテぶりは全方位をカバーしておりますが、性格は

「女王気取りのクソ女」

と、こちら同級生女子の証言。

ここに現在37歳のメイヴィスが元恋人バディに言ったセリフを付け加えてみましょう。実は彼女、バディ(女王の隣にいるべき田舎町一番のイケメン)を奥さんから奪い取ろうとしていて、ネイルからリンパマッサージからムダ毛処理から入念にやって、彼に会いに行きます。でもって殺し文句が、はいこちら。

「この曲覚えてる?初めてあなたにフェ○した時に流れてた曲❤」

……こ、困りましたね。どうなんでしょう、この地続き感。同級生が証言する高校時代と今の間には20年近い隔たりがあるですが、メイヴィスのやり方は高校時代と全く変わっていません。

若ぶって厚塗りになっちゃっているイタい女子ぶりのシャーリーズ姉さんpinterest
Everett Collection//Aflo

実はこれ、【悶々13】【悶々14】書いた「可愛い売り」と構造的にはほとんど同じです。「学園の女王」を経てこの年齢まで「美人でエロくてちょっとビッチ」でモテてきた彼女は、顔とか運動神経の良し悪しより、明日のベビーシッターの手配のほうが重要なバディを、そうした「学園の女王」の方法論で押し続けます。周囲はもはや、すっかり「学園」を卒業しちゃっていることに、彼女だけが気付いていません。

一人暮らしのマンションで、朝だらしなく目を覚ましたメイヴィスが着ているキティちゃんのTシャツ、これは大人なんだか子供なんだかわからない、「ヤング・アダルト」の象徴です。こういうものを「年甲斐もなく」と攻撃する人には、正直カチンときますが、カチンときながらも、気をつけなきゃいかんと思ったりもします。

「いい大人」にも「子供っぽさ」が許されてしまう今の時代、特に結婚も出産もしていない女子には、学生時代の延長みたいに生きている、やけに若々しい人がわんさかいます。でも、いくら「学生時代と全然変わらない」とか「20代でも通用する」とかおだてられても、本当の学生でも本当の20代でもありません。

『ヤング≒アダルト』は、ある意味でリトマス試験紙のような作品かもしれません。メイヴィスの暴走は情けない笑いでいっぱいですが、イタいところを突かれて悶々としちゃう自分も、もちろんいないではありません。

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