【悶々16】「あの人の持ってるアレが欲しい」の不幸

「あの人のアレ」が素敵に見えるのは、サイズも色もあの人にぴったりだから。誰にでも似合う、誰もが着こなせる、ってものじゃありません。

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NYで一番イケてるカップル」の転落人生

さて「愛され」の呪縛について書いた前回、映画『華麗なるギャツビー』のヒロイン、デイジーが言う「女の子はキレイなオバカさんが一番」という「うわああああ」なセリフに触れましたが、実はこのセリフ、作者のフィッツジェラルドでなく、その妻のゼルダ・セイヤーが言ったものです。そもそも作品のギャツビーとデイジーのなれそめは、この夫婦のものとよく似ています。

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映画の主人公J・ギャツビーは、8年前に出会った初恋の相手で上流階級のお嬢さま、デイジーを取り戻すため、貧乏軍人から成り上がった大富豪です。地元で有名なモテモテ美少女だったデイジーは、相思相愛のギャツビーが戦争に行ってしまうと、「待ってるわ」とか言いながら大富豪と結婚してしまっているんですね。

ゼルダも地元じゃ知られた美少女お嬢さまで、作家志望の貧乏青年フィッツジェラルドは知り合ってすぐに猛アタックを開始します。映画と違うのは2人が結婚したこと。並み居るライバルを押しのけ、「小説が出版されたら結婚する」という約束を取り付けたフィッツジェラルドは、彼女をモデルに書いた小説で華々しくデビュー。作品はベストセラーになり、ふたりはNYで贅沢かつ自由奔放な生活を始め、周囲からは「NYで最もイケてるカップル」として認知され――なんだか絵にかいたようなイカした展開ですが、ここが2人の頂点。20歳で結婚したゼルダは、24歳には借金まみれになり、夫の浮気に激烈な嫉妬と常軌を逸した行動を繰り返した後、30歳で統合失調症を発症します。

他人を羨む人が、完全に見失っていること

アメリカの1920年代は、急速な経済成長で株式投資が盛り上がり、誰もが自分の能力以上の生活を求めた、日本のバブルみたいな時代です。女性の自由も広がり、濃いメイクにショートカット、脚や腕を露出したファッションで、酒や煙草やセックスを楽しむ「フラッパー」と呼ばれる新しい女性像が流行していました。

ゼルダはまさにその代表格で、「裸で泳いでるという噂を広めるために、ピタピタの肌色の水着で泳ぐ」とか「ユニオンスクエアの噴水に飛び込む」とか、ワケのわからん放埓さで知られ、その派手さと大胆さゆえに「モノにしたい」と思う男がわんさといました。要するに彼女は「狂乱の時代」の流行りの「愛され」だったわけです。

そこに求婚してきた男が派手好きな自信家の二枚目で、彼の作家デビューと共にNYで暮らし始める――なーんて流れは、あんた友達なんかと自ら突っ込みながら言いますけども、いかにもゼルダの好きそうな展開です。その時は、それが自分の欲しているものだと思っていたんでしょうな。

さて冒頭の「女の子はキレイなオバカさんが一番」という言葉は、ゼルダが出産直後の娘に言った言葉です。実はフィッツジェラルド、ゼルダの日記から文章をそのまま抜き出し、多くの作品に無断使用してるんですね。Facebookのコピペですらカチンとくるのに、日記から抜き出しって、最低のクソ野郎としか思えません――が、そうした経験から、ゼルダが「私も作家になれんじゃね?」と思ったことは想像に難くありません。実際にいくつかの小説を書きあげてもいます。

27歳の時にはバレエを猛然と始めています。きっかけは夫の恋人、17歳の女優ロイス・モラーンへの対抗意識だといわれています。「小さい頃にやっていて、それなりの才能があると言われたし、自分だって"ひとかどの人間"になれる」と思ったにしても、朝から晩まで踊りまくり、体形維持のダイエットでカリッカリに痩せて、プロを目指して……と聞くと、えっ?プロ目指してんの?と思いますね。この頃から、すでに少し壊れていたのかもしれません。ほどなく統合失調症を発症させた彼女は、今度は生前に出版された唯一の小説『ワルツは私と』を書きあげますが、もちろん彼女が望む成功は得られません。

『ワルツは私と』にはこんな一節があります。

一度に二種類の単純な人間になるのって、すごく難しい。自分だけの法をもちたいという人間と、素敵な古いものは全部とっておきたい、愛されたい、安全でいたい、守ってもらいたい、と思っている人間と

周囲がもてはやす「お騒がせキャラ」や「憧れの夫婦」を演じ、夫の成功を見れば「自分も作家で成功しよう」と考え、女優と比べられれば「私も舞台に立つわ」となる彼女は、一見"自分の法"を持った女に見えて、他人の評価や成功に反応して「欲しいものはこれだわ、いやこっちだったかも」と右往左往し、結局は何も手にできずに悶々としています。

彼女は何がしたかったのか、ホントはそんなんなかったのかもしれません。でもやりたいことも成功もなくても、幸せな人はいくらでもいる。それを完全に見失ってることが、何よりも切ないことに違いありません。

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