現地時間1月8日に行われた第74回ゴールデングローブ賞。ミュージカル映画『ラ・ラ・ランド』が過去最多の7部門を受賞するなどの盛り上がりを見せる中、特に話題を呼んだのが、功労賞に当たる「セシル・B・デミル賞」を受賞したメリル・ストリープのこちらのスピーチ。

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本当にありがとう。皆さんを心から愛しています。お許しいただきたいのですが、週末に叫んだり嘆いたりすることがあって、声が枯れてしまいました。それに年明けから、頭が混乱するようなことも色々あって…なので、準備したスピーチ原稿を読ませていただきますね。
ハリウッド外国人記者協会の皆さんも、本当にありがとう。(イギリスの俳優)ヒュー・ローリーが言ったことについて、少しお話させていただきます。今、この会場にいる私たち全員が、アメリカ社会において中傷の対象となっています。だって考えてみてください。ここはハリウッドで、会場にいるのは外国人の俳優や記者たちばかりなんですから。私たちはいったい何者なのでしょう? ハリウッドでいったい何なのでしょう? その答えは、「様々な場所からやってきた人々の集まり」です。
私はニュージャージーに生まれ育ち、公立学校で学びました。ヴィオラ・デイヴィスはサウスカロライナの農家の小屋で生まれ、ロード・アイランドのセントラルフォールズで育ちました。サラ・ポールソンはブルックリンでシングルマザーの元に育ちましたし、サラ・ジェシカ・パーカーはオハイオ出身で、7人か8人兄弟のうちの1人です。エイミー・アダムスはイタリア生まれ。ナタリー・ポートマンはエルサレム生まれです。彼女たちの出生証明書はどこにあるのでしょう? 美しいルース・ネッガはエチオピアで生まれ、確か…アイルランドで育ちました。そして彼女は今回の授賞式に、ヴァージニアの小さな町出身の女の子役でノミネートされています。ライアン・ゴズリングはカナダ人。ケニア生まれでロンドン育ちのデヴ・パテルは、タスマニア育ちのインド人役を演じて今日この会場に来ています。

なぜメリルはこんな話をし始めたのか? 実は名指しこそしなかったものの、そこに込められているのは「反移民政策」を主張するトランプ次期大統領への痛烈な批判。魂のこもった彼女のメッセージに、涙を浮かべるセレブたちの姿も…。

ハリウッドは、違う地域から来た人々や、外国人の集まりです。彼らを全員追い出したら、フットボールか格闘技くらいしか観るものが無くなってしまいます。でも、それらは"アート(芸術)"ではありません。私たち役者の仕事はただ1つ。自分とは異なる人の人生に息吹を吹き込み、観る人たちにその人生を感じ取ってもらうことです。この1年も本当にたくさんのパワフルなパフォーマンスが生まれ、多くの情熱的な作品が誕生しました。
でも、ひとつ衝撃を受けたパフォーマンスもありました。そのパフォーマンスは私の心を突き刺しました。それが素晴らしかったからではありません。ましてや素晴らしい点なんて1つもありません。でも、そのパフォーマンスには影響力があり、作為的に集められた観客を沸かせていました。その瞬間とは、この国で最も敬われる地位に就こうとしている人が、障害を持つ記者の物真似をした時のことです。その人物は、真似された記者よりも遥かに強い特権と権力を持っています。それを見たとき、私の心は折れそうになりました。今でも頭から払いのけることができません。なぜならそれは映画の中ではなく、現実の出来事だったからです。

メリルが語ったのは、2015年に行われた集会で、トランプ次期大統領が見せたこちらのスピーチの一場面のこと。

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Trump mocks reporter with disability
Trump mocks reporter with disability thumnail
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そしてメリルのスピーチは続く。

権力を持つ公人がこのような侮辱的パフォーマンスをすることは、人々の生活に影響を及ぼし、また、人々に「自分も同じことをしていいのだ」という認識を植え付けてしまいます。軽蔑は軽蔑を招き、暴力は暴力を煽ります。権力ある者がその力を弱い者イジメのために使ったなら、私たちは皆負けてしまいます。
これはメディアにおいても言えることです。報道する力を持ち、いかなる攻撃にも屈さない記者が必要です。建国の父たちはそのために、報道の自由を憲法に記したのです。ハリウッド外国人記者協会の皆さん、そして私たちのコミュニティを取り巻く皆さんにお願いです。私と一緒に、ジャーナリスト保護委員会を支援してください。なぜなら、私たちが前に進むためには彼らが必要だからです。そして彼らもまた、真実を守るために私たちが必要なのです。

ラストは、年末に急逝した故キャリー・フィッシャーの言葉を借りてこのように締めくくったメリル。

私の友人であり、先日旅立った親愛なるレイア姫が、以前私にこう言いました。「心が壊れたときは、それを芸術に変えていくのよ」。ご清聴ありがとう。

多くの人の心を揺さぶったメリルのスピーチが示すように、アメリカは「Melting pot(人種のるつぼ)」と呼ばれるくらい多くの外国人や移民たちが暮らす国。でも、その背景があるからこそ、他の国では作りえない多くの傑作が生み出されてきたのも事実。

トランプ大統領が就任する1月20日以降のアメリカにどのような変化が起きるのか…それは誰にも分からないけれど、才能あふれる人々の力によって、今後もこの素晴らしい文化が守られていくことを願うばかり。