「あの子っていい子だよね」と言われると、いい子でないことが罪のように思えてしまう。本当はもっと自由に生きたいのに、「いい子の呪縛」から逃れられない。これは日本の女子の悪い癖です。そんな女子たちにこそ贈りたい、新連載「悪姫が世界を手に入れる」。

記念すべき初回の悪姫さまは、ジャクリーン・ケネディ・オナシス。現在公開中の『ジャッキー ファーストレディ 最後の使命』でも話題の、63年に暗殺されたケネディ大統領の奥さんです。

史上最年少でファーストレディになった彼女は、その優雅さと頭の良さ、さらには洗練されたファッションセンスで、国民から絶大な人気を獲得した伝説的人物です。実はそれは国外でも同じで、彼女が外遊に同行するたびにその国でジャッキー・フィーバーが巻き起こり、主役の座を完全に奪われた大統領のお約束ギャグ、「私はジャクリーン・ケネディをエスコートしてきた者です」も各地でバカウケだったといいます。

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そんな前振りをしつつ、まずは同時代のセレブ作家トルーマン・カポーティーの実名セレブ暴露小説『叶えられた祈り』から、あるレストランに入ってきたブービエ姉妹(ジャッキーとその妹)を見て、二人の奥様がひそひそ交わす会話を引用いたしましょう。

「たいていの人間はあの二人のどちらにも我慢出来ないと思うわ。ことに女性はね。その気持ちはわかるわ。彼女たちのほうが女性嫌いで、女についていいことを言わないからよ」

遠くの人にとっては憧れの的だったジャッキー、実は近くの女子からはめちゃめちゃ評判が悪かったんですね。その理由は、ジャッキーが「ねえねえ、何食べる~? あ、私も同じのにしちゃおうかな!」とか「わかる、そういうのって辛いよね~。私もそうだった」とか「一緒に泣いたり笑ったりするのが友達」みたいな、働く女が少なかった時代の女子的世界のデフォルトを、まったく求めていなかったからです。

ジャッキーは完璧主義者です。成績がいいだけでなくスポーツも万能で、さらに私がすごいなと思うのは、母親に叩き込まれた「上流階級のお嬢様のあり方(JOA←今作った)」を生涯貫き通したことです。映画『ジャッキー ファーストレディ最後の使命』では、ナタリー・ポートマンが完全再現していますが、これはどんなことがあっても感情を表に出さないという「JOA」を実践したもの――お嬢様は囁きボイスでSiriみたいにゆっくり話す、つまり、興奮して早口! 怒りで震え! 思わず爆笑! みたいなことは絶対にNGなんですね。

人生の様々な局面で、彼女が常に上品だったとは、私は全然思いません。2度目の結婚では、大富豪の夫の前妻の娘から財産をふんだくるべく訴訟を起こし、その娘から「あの女と縁が切れるなら、いくらでもくれたるわ!」と言わしめています。いわゆる「上品なお嬢様育ち」のワケがないのですが、それでもなぜか伝説の上流女性としての名前が歴史に残っているのは、このトークと無縁ではないように思います。つまりこれは「相手が気づかぬうちに、自分のいうことを飲み込ませるテク」だったのではないかと。

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ジャッキーには、こんなエピソードもあります。ファーストレディになった彼女は、当時ボロボロだったホワイトハウスを大統領官邸に相応しく、美術館のように修復しようと考えました。でも圧倒的に資金が足りません。一計を案じた彼女は、ホワイトハウスのガイドブックを自ら企画編集し、それを売って資金にしようと考えます。ところが前例のない申し出に戸惑い「検討します」と答えたスタッフに、ジャッキーはやわらかく、でも一歩も引かずに切り返します。

「検討じゃないの、やるの」

外遊でも様々な伝説があります。イタリアの王子に誘われるままにスポーツカーに乗り、シークレットサービスを巻こうとしたこと。中東では「ラクダに乗る」と言い出して周囲をハラハラさせたこと。インドからの贈り物の「子どもの虎」をホワイトハウスの庭で飼うことはさすがに諦めたようですが、パッと閃いた天才的発想や楽しい気まぐれを、ジャッキーが言い出したら、周りはもはや絶対に止めることができません。

でもそういう女と認知されたら、もうこっちのもの、なんですよ。実はね。