第4回

ローレン・バコール Lauren Bacall

上目使いで相手をじっと見据える強く印象的な眼差し"ザ・ルック"と、ハスキーな低音ボイスがトレードマークのローレン・バコール。硬質な美貌でクール・ビューティーと言われた彼女は、前回紹介したマリリン・モンローとは2歳違い(バコールの方が年上)。同時代を生き、共演作(『百万長者と結婚する方法』)もあるけれど、ふたりが生きた道は正反対だ。役を得るために権力者と寝ることをいとわず、恋多きとはいえ愛情を欲しながらも孤独なまま、36歳でこの世を去ったマリリン。対して、ヴァージンのまま最愛の人ハンフリー・ボガート(ボギー)と結婚し、彼と死別するまで幸せな結婚生活を築いたのが彼女だ。有名俳優たちが、どんなにおしどり夫婦と言われようが、数年後には離婚している場合が多いハリウッドにおいて、ボギーとバコールは今や映画史に残る「美しい伝説」になっているほど。

バコールの映画デビュー作『脱出』での共演がきっかけで結婚したふたりだが、25歳年上で、すでに大スターだったボギーがバコールを"見初めた"というカタチで語られることが多いこの恋。出会った当初、バコールは19歳。右も左もわかっていなかった新人女優なのだから、当然と言えば当然だが、彼女がただ単に受け身のラッキーガールだっただけではない。当時、既婚者だったボギーの妻は、異常に嫉妬深く、アル中気味で、しかも何かと言うと暴力を振るうという、とんでもないDVだったという。その日々の暴言・暴力にじっと耐え続けていたボギーを文字通り、救ったのがバコールだったというわけ。

ローレン・バコールpinterest
Darlene Hammond
左からローレン・バコールと最愛の夫ハンフリー・ボガート、そしてマリリン・モンロー。『百万長者と結婚する方法』のプレミアでの1枚

『脱出』撮影中にふたりが恋に落ちたことに気づいた監督のハワード・ホークスは彼女を女優として自分の手で育てていきたいと思っていたため、ボギーと別れるように何度も警告したり、時には別の男性を紹介したりしたという。さらに母親からも「25も年上の既婚者なんて!」と猛反対されたものの、バコールの心は揺れることなく、どんなに遠く離れていて、たとえ時間が短くても、「狂ったように愛し合っているふたりなればこそ」会って手を取り合い、妻に疲れたボギーを何も言わずに癒し続け、離婚が成立するまで待ったのだ。「わたしの望みはハンフリー・ボガート夫人になることだけだ」と、何なら女優を辞めてもいいと思うほどの強い確信を持って。

本人は自覚していなかったかもしれないけど、25歳上のオトナの男を満足させるだけの知性とユーモア、器があったのだろう。その後、若く無垢だったバコールがほかの男性に心惹かれることがあっても、ボギーは大目に見ていたのだとか。もちろん、実際にコトに及ぶことが一切なかったのは、何よりもふたりが固い信頼関係で結びついていたからにほかならない。

ボギーが病に倒れた結婚生活終盤も、仕事を続けながら献身的に看病したバコール。19歳から心身ともに愛した人。ハリウッドというきらびやかな世界で、その彼の最期まで添い遂げた深い彼女の愛、覚悟があってカッコイイ!