アジアで摂食障害の女性が急増している…!? そんなレポートがコスモポリタン アメリカ版から届きました。なぜ今「アジア」で? 専門家のコメントとともに紹介しています。

2人の女性を街で見かけたとしよう。どちらも小柄だが、一人は白人で、もう一人はアジア人。どちらか一人だけが拒食症(もう片方は生まれつき細身)だとしたら、あなたはどちらが拒食症だと思うだろう?

恐らく大半の人が白人の方だと答えるだろう。アメリカのNPO法人 全米摂食障害協会によると、摂食障害はこれまで白人と結びつけられやすい病であったと言われている。しかし近年の調査結果によるとアジア圏での摂食障害が急増しており、アジア人やアジア系アメリカ女性たちが抱える文化的背景が発症の原因のひとつとなっているという。

19世紀後半、摂食症がアメリカと西ヨーロッパで初めて医学的な病気として報告され、1960年代の終わりごろから過食症とともに西洋諸国で広く知られるように。摂食障害は1970年代に入ってからアジア圏でも見られるようになったが、1990年までにその症状を報告していたのは日本だけだった。アメリカの精神科医用の診断基準マニュアル「DSM-5」に摂食障害は「精神病」として記載されているが「過食症摂食障害(むちゃ食い障害)」は2013年の改訂版で追加されている。それ以前は「神経性無食欲症(拒食症)」と「神経性大食症(過食症)」のみの記載だったよう。

2015年9月に出版された報告書で、コロンビア大学のキャサリン・M・パイク教授(心理学)は「アジア圏における摂食障害は西洋諸国とは独立したかたちで発展し、各地域の文化に影響を受けながら広がっている」と論じている。急速に工業化の進む東アジア諸国での摂食障害の発症について、「その国・地域で『なぜ摂食障害が発症しているのか?』そして『なぜ摂食障害が‟問題"として取り上げられないのか?』という点は、アジア独自の文化と価値観が関係している」と説明している。

経済成長は、摂食障害の出現に(直接的ではないものの、間接的には)関わっているそう。欧米では20世紀後半に消費者経済が急成長し、これまで以上に「個人の成果」を重視するようになったが、この時期に摂食障害は急増したと言われている。この流れは後にアジアでも顕著に現れている。日本はアジアにおいて最初に近代的経済成長を経験した国であり、摂食障害の出現を報告する国となった。ちなみに、近年もっとも摂食障害の症例が報告されているのは中国とベトナムである。

「アジア諸国が裕福になり、グローバル経済に影響力を持つのに伴って、摂食障害はより増加していくでしょう」とパイク教授は語っている。21世紀に入って最初の10年間で、日本における拒食症の発症率1990年の約4倍に増加した。2014年3月に報告された調査によると、中国の大学生の摂食障害発症率は、欧米の大学生に匹敵するほど上昇しているとのこと。また台湾で2009年に行われた調査では、台湾の女子大生の間で過食や下剤を使ったダイエットなどの習慣が広がっており、うち43%には摂食障害の恐れがあると報告された。

中国、日本、韓国は共に儒教的価値観を基盤として共有している国である。これらの国に共通する社会的背景が、摂食障害の発症を促しているだけでなく、問題を水面下に隠れたままにしてしまうのかもしれない。例えば、女性に「男性への従属」を求める体制、家庭や家族へ尽すことが当然とされている集団主義的な考え方、社会的調和を維持することを重要視する風潮などが挙げられる。東アジア諸国はますます消費者志向型へと変化しているものの、欧米の個人主義に慣れ親しんだアジア系アメリカ人女性たちは、(こうしたアジア諸国に根付く)伝統的な価値観に戸惑いを感じているという。

アジア人女性が「痩せていなければならない」と感じるプレッシャーは、アジアに広がる伝統的な「女性のあるべき姿」の概念と密接に関わっているのではないだろうか。「アジア圏では一般的に、女性は小さく、細く、おしとやかであるものだという考えが存在します。これは女性はおとなしく従順であるべきだという、性差別をともなう『女性への理想像』から生まれていると言えるでしょう」と、中国系アメリカ人のジュリアナ・チャン氏は語る。彼女は台湾からカリフォルニアに11歳で移住し、高校時代に摂食障害に悩んだ経験を持つ女性だ。また「スリムであるということは、身体的特徴というだけでなく、アジア人女性の『あるべき姿』と考えられています」と指摘するのはリサ・リー氏。彼女は、台湾系アメリカ人リン・チェン氏とともに、アジア人/アジア系アメリカ人がボディイメージについて話し合うことができるウェブサイト<Thick Dumpling Skin(分厚い餃子の皮)>を共同創設した。

アジア文化において「痩せていること」はデフォルトのボディイメージであり、女性は社会全体から「痩せた体を維持すべきである」というプレッシャーを感じている。「女性が痩せているのは当たり前のこと。太っていると、その人自身に問題があると思われてしまう」とチャン氏。日本では2008年にウエストラインの数値制限を設けられ、韓国では結婚やキャリアアップにおいて、容姿は才能や能力よりも大切だと言われている。

ソウルからニューヨークに移住したばかりの韓国系アメリカ人ジョイス・クォン氏は、自身のブログ<Plus Size Fairy(太った妖精)>に「太っていると、まるで自分の管理能力の低さを公にしているように感じてしまう」と書いているが、直接指摘されたこともあるという。「数年前、韓国のあるデパートで買い物をしていたら、洋服をすすめてきた店員に『もう少し体重を落とせばもっと似合うのに』と言われたのです」

中国や台湾では、伝統的な祝いごとや儀式に家族や親せき一同で参加するのが習わしだが、そういった場で食事をコントロールするのは至難の業である。チェン氏は、「食に関する問題の多くは、家族との時間の中で起こりました」と振り返る。「家族や親せきが集まると、皆で大きな円卓を囲み、何時間もかけて食事をするのですが、絶えず誰かが私の皿に食べ物を盛り続けるのです。ものすごく細身(で小食)でない限り、ずっと食べ続けるのが当たり前。でも太ってはいけないんです。まったくもって、矛盾しています」

リー氏も同じような経験をしています。「食は生活のもっとも大切な部分であり、家族や親せきが愛情を示す方法の一つです。だからたとえお腹がいっぱいでも、もっと食べろと言われる。そこで遠慮すると、愛情を拒否することになってしまうのです」

このような家族にまつわるプレッシャーは上の世代から来るものが多いようだ。中国韓国では、過去に経験した食糧難や飢饉の記憶が「食べられることは幸福の証」という考えを人々の間に根付かせ、「お元気ですか?」と同じ意味で「食事はもう召し上がりましたか?」と挨拶するそう。クォン氏も「食事を無駄にすることは恥」という祖母の教えを無意識のうちに受け継いでいることに気付いたという。「母親と同じように、私も食事を必ず残さず全部食べてしまいます。たとえお腹がいっぱいでも、です」と話す。

リー氏は「サイト内で読者同士が悩みをシェアしていますが、"親に相談しても問題だと気付いてもらえないのに、どうやって病気を克服すればいいの?" というコメントがありました」と語り、アジア人コミュニティーにおける摂食障害に対する無関心を指摘する。精神的な病気はその人の弱さゆえと考えられ、儒教の伝統においてはそういった弱さの露呈は社会的調和を乱すものと考えられてしまいがち。「セラピストに助けを求めることはおかしなことであり、弱さだと解釈される。この現状が問題であると認識されていないこと自体が、まさに問題なのです」とチェン氏は話した。

このように多くの女性が、自分たちのアジア人としてのアイデンティティが食への関わり方とボディイメージに大きく影響していると語っている。チャン氏は、家族の中では体重のことがいつも話題になっていたため、自分の食事の仕方が変だと感じたことはなかったという。「でも徐々に私は食べ物に取りつかれていきました。頭の中では常に次の食事について考えていて、食事は絶対に自分一人でしたかった。そしてやっと自分の食への執着が異常であることに気づき、治療を受ける決心をしたのです」

自分と同じようなプレッシャーに苦しむアジア人女性がたくさんいると知ることで、多くの女性が摂食障害を克服している。一人で悩み苦しまないで欲しいという願いを込めて、チェン氏とリー氏はアジア人女性たちに、「Thick Dumpling Skinで体験談をシェアしてほしい」と訴えている。「あまりにも多くの女性が、孤独の中で苦しみと対峙しています。悲しいことですが、多くのアジア系家庭に(摂食障害を)なかなか理解してもらえないのが現実なのです。自分は一人ぼっちではないことを知ることで、回復への第一歩を踏み出して欲しい」

この翻訳は、抄訳です。

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